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無敵王者・川崎フロンターレを打ち破る策とは?バルサ対策に見るヒント

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:松尾/アフロスポーツ)

 戦力的に上のチームと戦う時、何らかの対策を立てる必要がある。戦力的に下のチームががっぷり四つに組んだ場合、戦局を優位に動かすのは難しいからだ。士気の高さだけでひっくり返すのを望むのは、神風を待つようなものだろう。

<相手の長所を消し、弱点を探せるか>

 無策で勝算は立たない――。

川崎相手にやってはいけないこと

 Jリーグ王者の川崎フロンターレは、今や圧倒的な強さを誇る。昨シーズンは独走で覇権を取ったが、今シーズンも11勝2分けで首位を突っ走る気配。攻撃力は破壊的で、36得点は破格だ。

 彼らの足元をすくうにはどうするべきか?

 川崎はポゼッション力の高さに定評がある。ビルドアップからゴールまでボールを運ぶ動きは洗練されたもので、いくつものパターンがあるし、精度も高い。風間八宏監督の時代から一貫して戦い方のモデルを引き継ぎ、優れたスカウティングで集めた選手たちが適応、成長し、チーム全体が革新。1年目は苦労したレアンドロ・ダミアンも、今や無双感がある。前にボールが入った時、リーグでは無敵に近い。

 昨シーズンのJリーグベストイレブンで、9人が川崎の選手だった。チームだけでなく、個人もトップレベルにあり、層も厚い。中でも、田中碧は突出したタレントだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20210402-00227610/

 相手をノックアウトする一撃も持つ。三笘薫は左サイドを中心に相手の守備をこじ開けられ、個人で戦局を好転させられる。後半途中に出る場合は切り札となるだろう。

<川崎にボールを持たせたら、手も足も出ない>

 まず、それを肝に銘じるべきだろう。

 4月最後のJ1首位攻防戦、名古屋グランパスは川崎を相手に受けて立ってしまった。自慢の守備ブロックも、次々と破壊された。GKランゲラックが奮闘したが、序盤で3失点。試合は決した。

有効な策とは

 ジネディーヌ・ジダン監督のレアル・マドリードは、引き込む戦い方を極めている。アタランタ、リバプール、バルサのようにボールをつなぐ戦いをする相手を得意とする。じっくりと守るだけの撓むような堅固さがあり、容易にゴールを与えない。そしてミスを突いて、スピードやパワーのあるアタッカーがカウンターで仕留める。有能な選手たちが相手の戦術に合わせ、フィーリングで対応できるのだ。

 もっとも、Jリーグにジダン・マドリードに迫る戦力のチームは存在しない。守りを固めるだけでは、しんどい戦いになるだろう。閂を懸けた名古屋の守備が扉ごと破壊されたのは象徴的だ。

 対策としては、ビルドアップでプレッシングを仕掛けてノッキングさせるしかない。なぜなら、中盤にボールを運ばれたら厳しい情勢になるのは歴然。バックラインの回しで手を打たない限り、後手に回ることになるはずだ。

 そこで端的に一つの策と言えるのは、マンマークに近いディフェンスだろう。

 事実、コンサドーレ札幌はマンマークで一つの成果を出している。とにかく前からはめ、自由を与えない。守備からアクションを取ることで先手を取り、まずは攻撃を分断し、活路を見出す。フィジカル的、戦術的に対等に戦い、ボールプレーを得意とする川崎のストロングを消すのだ。

最強バルサを破った戦術

 最強を誇った時代のバルサを相手に編み出されたのはプレッシングは、一つのヒントになるかもしれない。

 マンマークに近い形で選手の動きを制御しつつ、ボールを下げさせる。そしてGK、もしくはロングキックに自信のあるジェラール・ピケをあえて外し、長いボールを蹴らせるように仕向ける。そしてハイボールに勝てるだけの選手をバックラインとボランチに揃え(バルサには高さで勝てるタイプの選手が多くはない)、すかさずセカンドボールを回収する。延々と追い回すのではなく、蹴らせるのだ。

 単純な戦法の肝は、相手を追い回せるだけの体力と気力、それにディフェンス陣で制空権を取れるか。その二点にあった。

 また、アスレティック・ビルバオ時代のマルセロ・ビエルサは完全なマンマーキングで対応した。勝てはしなかったが、歴史に残るような互角の戦いをやってのけている。バルサの監督や選手が見事さを称賛したほどだ。

 単純な1対1で完全に入れ替わられてしまったら、というリスクはある。しかし、危険があるのは引いて守りを固めた戦い方でも変わらない。波状攻撃を食い止められる可能性は低いし、”事故”も起きやすく、自陣に押し込められるわけで、必然的に得点の可能性は低くなるのだ。

 しかし前からプレスをかけるだけでは、足を使って消耗し、やはり劣勢となる。

 そこでもう一つのポイントがある。

FC東京の失敗

<簡単にボールを渡さない戦いができるか>

 いくらボールを奪っても、単純に蹴り込むようでは、相手に銃を投げつけるようなものである。怯ませても、拾われて、撃たれるだけだ。

 札幌だけでなく、サガン鳥栖や大分トリニータのように、ポゼッションに取り組んでいるチームが善戦できているのは偶然ではない。

 もっとも、川崎も相手の戦い方は研究している。

 奪い返してくるボールを再び奪い返す。

 トランジションにおける練度は高い。局面で必ず厳しくボールに食いつくし、その強度で上回れる。結果、波状攻撃が可能になっているのだ。

 例えば今年4月の敵地でのFC東京戦などは、トランジションで相手を凌駕していた(2-4で勝利)。局面の攻防で激しく戦い、敵陣でボールを奪い取るショートカウンターによって、前半でほとんど試合を決めてしまった。素早いリスタートも含め、連続的な戦いができていた。

 FC東京は「打ち合う」と意気込み、ボールをつなげようとしていたという。しかし選手のキャラクターも、チームとしての練度も劣り、簡単に餌食にされた。自陣に押し込められ、以前よりも脆くなったブロックに頼り、失点を重ねた。

 川崎とやり合うなら、試合序盤に前線からの猛烈なプレッシングを懸けるべきだった。少なくとも、「打ち合う」気概を見せるべきだった。そうすることで、気圧されることもなかったはずだ。

 序盤10分間で強度を懸け、得点を奪う。

 その奇襲策はジョゼ・モウリーニョ、ディエゴ・シメオネなども得意としている。ギャンブル的な要素もあって、その後の消耗は激しい。力を使い過ぎ、動きは鈍くなり、捨て身とも言える。しかし戦う意志を示せ、恐怖心を消せる効用もあるのだ。

 結局、個の戦いでしぶとく挑むことだろう。完璧な策はない。簡単に成功する策があるなら、だれでも使っているはずだが、無策で勝算は立たないのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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