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モンゴルの大敗とロシアW杯ポーランド戦とサッカーの流儀

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

止まないモンゴルへの賞賛

「モンゴル代表の選手たちは最後までフェアに奮闘した。その姿は模範とすべきで、美しかった」

 日本に14-0で大敗しながら、ほとんどファウルをせず、必死に戦ったモンゴルへの賞賛が止まない。

 筆者は現場でその姿を目撃し、彼らの敢闘精神には心から拍手を送った。モニター越しにも、その姿勢は十分に感じられたのだろう。

 誤解を恐れずに言えば、サッカーは野蛮なスポーツである。コンタクトプレーが基本になるだけに、反感や怒りを持つと、荒っぽくなる。もはや勝負がついた状況で得点を決められ続ける、というのは精神的に非常につらいもので、一挙手一投足が乱暴になりかねない。それはしばしば、危険な反則行為につながる。

 しかしモンゴルの選手たちは最後までクリーンだった。記録的な敗北を受け入れた彼らは人間として立派である。ただし、それは誇りある敗北なのか――。

大差で勝利するのは侮辱か

 日本があまりに容赦がなかったのでは――。そんな議論もあるようだが、得点を決めた日本が恥じる点は何もない。

 確かに、欧州や南米では試合の決着がついた時点で、戦いをコントロールする方向に行く。5-0でリードしたら、6点目を奪うよりも、1点を返されるリスクのほうが高い。それは一つの文化だ。

 しかし得点を奪えるなら、10点でも、20点でも取る。それは勝負において当然の行動と言える。たとえどんな相手でも、ゴールは記録として残るし、単純に喜びをもたらすからだ。

 許されないのは、大差がついた相手を貶めることだろう。

 大差でゴールをした後、相手がバカにされたと感じるパフォーマンスをすることは礼儀として許されていない。誇りを傷つける、侮辱する行為は強く非難される。サッカーは野蛮である一方、こうした礼儀は重んじられるのだ。

 バルサのキャプテンだったカルレス・プジョルは、勝者のあるべき姿を追求し、ゴール後に相手が嫌悪を感じる喜び方をしていたブラジル人選手たちを叱責したこともあった。プジョルは敵を軽んじる行為が、チャンピオンとして真の敬意を受けないことを知っていた。言わば、王者の在り方だ。

 何より、敵を侮辱することは危険を伴う。バカにされたと感じた相手は、報復行為に出るかもしれない。膝や足首を狙ったタックルになる可能性もあって、その誘発はキャプテンとして絶対に許してはいけないのだ。

野蛮さと礼儀のバランス

 サッカーは野蛮さと礼儀の両立で存在している。

 それだけに、モンゴルの選手が、”行儀の良さ”を賛美されることに違和感を覚えなかったら、成長はない。14-0で敗れることは紛れもない屈辱である。それに試合中、耐えたのは美徳だが、野蛮な勝負において、あまりにおとなしかったとも言える。

<プライドをズタズタにされた>

 その反骨心がなければ、サッカーの世界では勝ち残っていけない。なりふり構わない勝利への渇望だ。

 はっきりと言えば、モンゴルの選手たちは反則行為ではなくても、もっと厳しく戦えただろう。それができないなら、それができる地点まで、自らを鍛える必要がある。さもなければ、日本と戦う資格はない。厳しいようだが、「立派」と言われたことを素直に受け入れたら、サッカーの世界で彼らはいつまでも敗者なのだ。

勝つ事が本にて候

 ロシアワールドカップ、日本がポーランドを相手に0-1で敗れた試合が批判されたことがあった。他の会場の試合を計算し、最少失点差ならグループリーグを勝ち進めたわけだが、「潔くない、卑怯だ」と声が上がった。「もう一つの試合が動いていたら、どうしていた」というご丁寧な推論もあったか。

 しかし、すべてを踏まえて日本は戦い方を決し、決勝トーナメントに勝ち進んだのである。何ら、少しも恥ずべきことなどない。現場で見ていて、あの日の陣容で日本がポーランドを相手に同点を狙ったら、点差を広げられていた可能性のほうが高かった。戦局は明らかだったのである。

「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候」

 戦国時代を生き抜いた朝倉宗滴の名言である。

「戦う者は、たとえ犬や畜生と言われようとも、勝つことが一番大事だ」

 現代語ではそう訳せるだろうか。

 少なくとも、欧州や南米の選手たちはその気概で挑んでくる。

 先日、来日したU―24アルゼンチン代表の選手達など、まさにその精神の塊だった。勝利しか考えず、かなり荒っぽいプレーを仕掛けてきた。小突き回し、挑発し、何でもありだ。

 U―24日本代表はアルゼンチンを相手に第1戦は苦しんで敗れた。しかし第2戦は激しさに対抗し、自分たちのプレーを見せ、目にモノを見せてやった。南米から来日した選手の動きが鈍かったのはあるにせよ、賞賛に値する戦いだったと言えるだろう。なりふり構わないプレーと真っ向から対峙したのだ。

 サッカーの流儀は、這いつくばっても勝利に向かって進むことにある。そこでぶつかり合った同士は、勝者であれ、敗者であれ、美しいのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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