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ナポリ戦を乗り越え、バルサはどう舵を取るべきか?メッシとプッチが示す道

小宮良之スポーツライター・小説家
メッシの話を熱心に聞くプッチ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 2019-20シーズン、FCバルセロナはリーガエスパニョーラの連覇を逃している。シーズン途中、首位に立っていたにもかかわらず、昨季優勝監督エルネスト・バルベルデを解任。選手とクラブの不和が噴出した。その後も、首脳陣が主力選手を攻撃するSNSを支持していた疑惑が上がるなど、チーム内は落ち着かなかった。優勝できるような状態ではなかったのだ。

「このままでは、UEFAチャンピオンズリーグ優勝などない」

 エースであるリオネル・メッシが、そう公言するほどだ。

 8月8日のナポリ戦。敵地でのスコアレスドローから本拠地で戦うとは言え、何が起こってもおかしくはない。たとえここを乗り越えても…。

 未来に向け、バルサはどう舵を切るべきなのか?

消耗してきたバルサ

 チームは再編が望まれる。リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ジェラール・ピケは3人とも33歳。主力でいられるのは、残り2,3シーズンか。セルヒオ・ブスケッツは32歳、ジョルディ・アルバも31歳になる。一つの時代が終わろうとしている。

 ここ数年、バルサは消耗してきた。

 サンドロ・ロッセイ、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長が司った約10年の体制は、有力外国人選手に投資している。ビッグネームを入れることで、マーケティング的なインパクトも起こす。実よりも名を取った形だろう。

 その結果、大金を叩いて選手を獲得してはうまくいかずに売りに出す、という悪循環を起こした。例えば220億円で獲得したフェリペ・コウチーニョは1年で“お払い箱”で、バイエルン・ミュンヘンに期限付き移籍も、今や市場価値は3分の1程度。その果てに、バルサのFWとしては物足りないマーティン・ブライトワイトを獲得するために、有力な若手二人を売却している(ブライトワイトはすでに売却する意向で、プレミアリーグのクラブなどから打診があるという)。そして、金庫が空になっていることが白日の下に晒されることになった(コロナ禍では、選手の給料大幅カット)。

 新陳代謝が起きず、深刻な状況と言える。

 しかし、活路がないわけではない。

プッチとメッシの融合

 下部組織であるラ・マシアの出身選手だけで、バルサは十分に魅力的な布陣は組める。

 リーガ再開後、中盤ではバルサBのエースだったリキ・プッチが台頭している。ボールを失わず、テンポを高め、敵を幻惑させられる。特にリオネル・メッシとのダイレクトプレーは、必見に値する。ラ・マシアから一貫したオートマチズムを感じさせ、相手がその動きについていけない。

「小柄で目立っている選手に、むしろ着目せよ」

 ”ラ・マシアの祖”とも言えるヨハン・クライフは戒めを与えているが、プッチはまさにその系譜を継いでいる。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、そしてメッシも小さい。大きな相手を倒すために、相手の裏をかき、逆を突く、という技術を修練してきた違いが出るのだ。

「体が非力で、トップでは難しい」

 プッチはその手の批判も受けてきたが、メッシを筆頭に、ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバというバルサを支えてきたラ・マシア組とプレーすることで、著しい成長を見せている。

 プッチのようなラ・マシア組をもっと多く登用し、メッシらと共存させることで、チームは強化できるだろう。

 はっきりと言えば、プラスアルファになるような外国人でなければ、バルサには必要ない。

ピャニッチは博奕

 例えば右サイドバックは、ネウソン・セメドに大金を積んだが、いまだにフィット感はない。セメドは肉体的に優れ、ダイナミズムは感じさせる。しかしサイドで必要な幅を作り、奥行きを与える、細かいパス交換や走るタイミングにずれがある。このポジションは、セルジ・ロベルトのようにMFタイプが担当することで十分だ。

 そして今年6月、クラブはアルトゥールとユベントスのMFミラレム・ピャニッチの交換トレードを成立させている。若いアルトゥールを手放すことで、数億円の収入を得られた。ピャニッチはトップレベルの選手だが、すでに30歳だけに市場価値が高まる可能性は低い。バルサの戦い方にフィットするか、疑問も残り、博打と言える。

 今シーズン、バルサBのキャプテンとして活躍した万能MF、モンチュを抜擢するべきだったのではないか。

 20歳になるモンチュは、2部昇格プレーオフでも3試合で2得点と獅子奮迅だった。とてもクレバーな選手で責任感が強く、キックに自信をもって得点力もある(リーグ戦は26試合出場8得点)。MF登録だが、どのポジションでもできる賢さを持っている。ポリバレントさは、セルジ・ロベルトに近い。

 しかし来シーズン、モンチュはトップ昇格の望みは薄いと言われる。1部クラブからオファーを受け(グラナダ、エイバル、ビジャレアル)、プレミアリーグのブライトンやセリエAのサッスオーロなど引く手あまた。レンタルか、売却の可能性もあるという。

唯一の再建の手立て

 

 バルサが復権するには、変革が急務になる。しかし、それは新たに選手を獲得することではない。むしろ、「有力だが、バルサにはなじまない選手」を売り払うべきだろう。その点、ネウソン・セメド、サミュエル・ウンティティ、ジュニオール・フィルポ、ウスマンヌ・デンベレは放出リストに載せ、アントワーヌ・グリーズマンですら、売却する必要があるかもしれない。

「ラ・マシア組とメッシと融合させる」

 それしか、再建の手立てはない。

 テア・シュテーゲン、イヴァン・ラキティッチ、スアレスなど有力外国人選手は土台だし、プレーインテンシティをもたらすアルトゥーロ・ビダルや非凡なフレンキー・デヨングなどは厚みを与える。センターフォワード、センターバックは補強も必要か。

 だが、他はラ・マシア組で足りる。

 もし大金を投じるなら、外に出した有力なラ・マシア組を呼び戻すべきだ。チアゴ・アルカンタラ(バイエルン・ミュンヘン)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、マルク・ククレジャ(ヘタフェ)は、大きな戦力になる。17歳でトップデビューした攻撃的MFシャビ・シモンズ(パリ・サンジェルマン)、19歳でポテンシャルの高さを見せるDFエリク・ガルシア(マンチェスター・シティ)を手放した痛手は大きい。何より、久保建英を数十億円を投じても取り戻すべきだが…。

 メッシ、ブスケッツ、ピケら主力が残っている段階で、ラ・マシアの若手を取り込めたら――。バルサは、新しい時代を紡ぐことができる。人材がいないわけではない。クラブの戦略の見直しが急務だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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