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レアル・マドリーでポジションをつかむ”高い壁”。久保建英は越えられるか

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサとの戦いに挑む久保建英(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 久保建英がレアル・マドリーに見初められたことは、特筆に値する。マドリーは世界に冠たるクラブとして、超一流選手しか興味を示さない。久保はそのお眼鏡にかなった――。

 一方、マドリーでポジションをつかむことは、小さな的を狙う銃弾を銃で撃ち落とすように難しい。高い城壁。それを越えなければならないのだ。

アザールでも四苦八苦

 今シーズン、マドリーは多くの有力選手を獲得している。しかし、ほとんどの選手が期待に見合った働きはできていない。

 チェルシーから1億3500万ユーロ(約155億円)で手に入れたベルギー代表FWエデン・アザールは、度重なるケガもあって鳴かず飛ばず。ジネディーヌ・ジダン監督からの信頼は厚く、アザールのためにシステムを4-3-3に変更するほどだが、これが全くの不発。国内リーグは10試合1得点、チャンピオンズリーグは5試合無得点だ。

 欧州サッカーをけん引するはずだったアザールの価値は、今や暴落している。

 フランクフルトから獲得したセルビア代表FWルカ・ヨビッチは、6000万ユーロ(約78億円)の値が付いた。ブンデスリーガでは3位の17得点、ヨーロッパリーグでも2位の10得点を記録していただけに、ゴールゲッターとして期待された。しかし15試合出場で2試合と低迷し、力不足を露呈、構想外となりつつある。

 FCポルトから5000万ユーロ(約60億円)で入団したDFエデル・ミリトンも、厳しい状況だろう。メンバーに入るのもギリギリ。出場した試合では不安定なディフェンスで、計算に入れられない。スペイン国王杯、レアル・ソシエダ戦では、守備の崩壊を起こす引き金になっていた(マドリーは3-4で大会敗退)。セルヒオ・ラモス、ラファエル・ヴァランの控えにもならない始末だ。

 リヨンから4800万ユーロ(約58億円)で契約した左サイドバック、フェルラン・メンディも精彩を欠いている。年齢的に力の衰えを隠せないマルセロの穴はどうにか埋めているものの、及第点はつけられない。攻撃力は一定の評価はできるものの、守備に回った時は後手に回っている。強豪相手だと苦しいだろう。

他クラブでエースでも、マドリーでは苦難に

 他に、ハメス・ロドリゲス、ガレス・ベイルなど大金を投じた選手たちの“稼働率”も思わしくない。彼らは他のクラブでは、エースクラス。実際、マドリーで不遇でも、引き抜かれてエースとなるケースはしばしばだ。

 例えば今シーズンのマドリーでほとんど出番が与えられないマリアーノ・ディアスだが、一昨シーズンは期限付き移籍したリヨンで、リーグ上位の得点数を記録している。ゴールセンスは群を抜き、今も引く手あまた。先日のクラシコ、数分間の出場で貴重なゴールを決めたように、ポテンシャルそのものは高いのだ。

 今シーズン、ジダンに戦力外を通告され、移籍先で活躍を遂げている選手は枚挙にいとまがない。

 コスタリカ代表GKケイラー・ナバスは、パリ・サンジェルマンで先発の座を確保している。スペイン代表SBセルヒオ・レギロンは、セビージャでジュレン・ロペテギ監督の信頼を勝ち取った。スペイン代表MFダニ・セバージョスはアーセナルではケガに苦しむも、実力は示し、バレンシアなどからのオファーは事欠かない(ジダンとの軋轢を噂され、復帰はないと言われる)。同じくスペイン代表MFマルコス・ジョレンテは完全移籍したアトレティコ・マドリーで、チャンピオンズリーグラウンド16のリバプール戦で2得点を決めるなど重要な選手になっている。

来季の補強候補

 来シーズンは、期限付き移籍をしていた選手たちが、続々と復帰する可能性が高い。レアル・ソシエダのノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴールはその筆頭だろう。左利きのインサイドハーフとして、チームをCL出場権に入るまで押し上げ、頭角を現している。今年で35歳になるルカ・モドリッチの後継者か。

 他にも、ボルシア・ドルトムントのモロッコ代表右サイドバック、アシュラフ・ハキミ、ACミランのフランス代表左サイドバック、テオ・フェルナンデスの二人も、復帰の可能性が出てきた。いずれもマドリーでは厚い壁を抜けなかったが、経験を重ねて、再挑戦することになるか。実力は折り紙付きだ。

 そして彼らに追随するのが、マジョルカの久保だろう。

 4月1日、スペイン大手スポーツ紙のasがWeb版で「来シーズン、残ってほしい選手、出て行ってほしい選手」のアンケートを行っている。久保に関しては、48%の人が「残ってほしい」と回答。これはチーム全選手で16番目に多い数。つまり、ファン投票なら25人ほどの選手枠に入る(現在のマドリーの契約選手はレンタル選手も含めて37人)。ちなみにベテランの域に入ったモドリッチは45%で18位、マルセロは33%で21位、不調のベイルに至っては8%で29位だ。

 久保の実力と将来性は、高く評価されている。

 しかし繰り返すが、マドリーでポジションをつかむのは離れ業である。もし久保がそれをやり遂げたら――。歴史が変わることになるだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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