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イニエスタ、ビジャの薫陶を受けた古橋亨梧は、森保ジャパンで輝けるか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ビジャ、イニエスタの二人にゴールを祝福される古橋亨梧(写真:築田 純/アフロスポーツ)

「素晴らしいニュースが届いたぞ!(古橋)亨梧が代表に初選出されたらしい。これがどれほど、(指導した)監督として誇らしいことか。あいつはそれだけのことをしてきたし、選出に値する(能力の)選手だよ。なにより、人間としてもいい奴だから」

 中国2部リーグ、青島黄海をスーパーリーグ(1部リーグ)に導いたファン・マヌエル・リージョ監督から、SNS通信アプリで筆者に熱いメッセージが届いた。

 リージョは昨シーズンからヴィッセル神戸を指揮し、今シーズンの途中まで監督を務めていた。世界最高の監督、ジョゼップ・グアルディオラが師事する指導者だけに、そのトレーニングの質は高い。選手やスタッフからの信望も極めて厚かった。高いプレー強度の中で、ディテールまで戦術を突き詰めることで、選手の意識まで刺激すした。

 今回、代表に選出された古橋に与えた影響も少なくないだろう。

 今シーズン、24歳になる古橋はJリーグですでに9得点を記録している。監督交代が相次ぐなど波の激しいチームにあって、存分に実力を示している。満を持しての代表選出になった。

 では、古橋は森保ジャパンで切り札になれるのか。

古橋の武器

 

 古橋のプレーは、スピードと同義語だろう。単純に足が速い。そこがアドバンテージになる。

「初速がはやく、一気に置き去りにされる感覚」

 Jリーグで対峙するディフェンスたちは、そう口をそろえる。

 古橋の特長は、何度もその走りを繰り返せる点だろう。本人も反復によって感覚が分かってきたのか。オフサイドラインと駆け引きしながら走り出し、見事にディフェンスの裏を巧妙に取るようになった。そうして一人で抜け出したら、なかなか止められない。

 世界最高のMFアンドレス・イニエスタはいち早く、古橋のセンスに気づいた。中盤のイニエスタから、一気に長いボールを古橋に合わせる場面は少なくない。第19節の湘南ベルマーレ戦も、右サイドを駆け上がる古橋とほとんど阿吽の呼吸で長いパスを通し、得点を生み出した。第24節のサガン鳥栖戦では、今シーズンのJリーグでも最高難度のダイレクトボレーパスを右サイドの古橋に合わせ、これがゴールにつながった。

 古橋自身、イニエスタとプレーすることによって、「スピード」を洗練させた。スピードそのものを持っている選手は少なくないが、大事なのは使えるかどうか。それで天地の差が出るのだ。

イニエスタだけでなく、ビジャの影響

 その点、古橋はイニエスタだけでなく、ダビド・ビジャのようなパートナーと前線で組む幸運も得た。

 ビジャはもはや往年のスピードはない。しかし、ボールを引き出す動きの技術は衰えず、パサーの視界に自らを入れながらライン突破する走りは、芸術に近い。そして高い集中力を保ち、受けたボールをゴールネットに叩き込む技量は抜群。足の振りが速く、モーションも読めないので、GKにとっては“斬られたのに気づかない”ような結末を迎える。

 ストライカーとしては、まさに手本だ。

 古橋は、その高い次元のプレーを触媒にしたのだろう。ダイアゴナルでゴールへ入り込み、フィニッシュする精度が上がった。ミドルレンジでのシュートにも落ち着きが出た。

「亨梧はスピードがあったし、すぐに能力の高さはわかった」

 リージョは言う。

「しかし(リージョが監督に就任した時の古橋は)トレーニングで、まるでグラウンドを歩いているようだった。もっと激しくプレーにコミットし続けることによって、必ずステップアップすると思っていた。これは神戸のほかの選手にも言い続けていたことだが、誰もが代表に入るだけの能力はあると思う。迷わずにプレーし続けることが大事だった」

 古橋は強度の高いトレーニングを積み、試合で揉まれることによって、才能が花開きつつある。

森保ジャパンでのポジション

 日本代表の古橋は、サイドアタッカーでも2トップの一角でもプレーできるだろう。まずは、スピードの持ち味を生かせるか。ラインのギリギリを狙う一方、守備でも走力を生かし、プレッシングにも対応できる。

 今の代表にはあまりいないタイプだろう。サイドでは、中島翔哉、堂安律、久保建英などボールを足元に入れて勝負するタイプが多い。古橋はダイアゴナルのランニングで一気にゴールに迫れるし、スピードを生かして一気にカウンターを発動させられる。また、守備でもしつこく体を張れる。攻守に違う色合いを出せるはずだ。

 ただ、最高の仕事場はゴールに近いポジションだろう。トップの一角、もしくは2シャドーの一角のようなポジション。パスを引き出し、深みや幅も作りながら、どん欲にゴールを狙う。右足でも左足でも、強力なシュートを持っているし、跳躍も高く、ヘディングでもゴールを決めている。ファーポストでボールを待ったり、自分の前にスペースを作ってシュート体制を作れるなど、天性のストライカーセンスがあるだけに、ゴールに近い場所がベターだ。

 11月19日、ベネズエラ代表は多くの選手をテストする意味合いが強い場合、先発もあり得るが、実績重視なら途中出場か。どんな展開であっても、ラインを駆け引きし、スペースを支配するFWは脅威を与えられる。先発だったら相手を消耗させられるし、途中出場だったら相手の動きが鈍ったところでとどめを刺せるはずだ。

「亨梧は必ずやる選手」

 リージョは太鼓判を押している。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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