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GKの孤高。日本代表になる者の共通点

小宮良之スポーツライター・小説家
ロシアW杯メンバーのGK3人、中村、東口、川島(左から順に)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 サッカーにおいて、ゴールキーパーは最も難しいポジションだろう。

 唯一、手を使うことを許される。その“特権”と引き替えに、厳しい目を向けられる。わずかな失敗も許されない。

「精神的に追い込まれるポジションだから、ぶっ飛んでいるところがないと、やっていけない」

 スペインではそう言われるが、GKはlocoという言葉で表現される。クレイジー。すべての責任を背負い込むと危険だが、それを感じられなければ、技術は改善せず、チームは勝てない。心がよじれるようなポジションなのである――。

GKの十字架

 GKたちの生きる日々は尊い。

 それは、たった一つのポジションを巡った争いになる宿命を背負っているからだろうか。多くの場合、正GKはほぼ決定している。そのポストを無闇に脅かすのは、和を乱す厄介者として見られる。そこで耐え忍びながらも、常に準備だけ整え、チームが勝ったときには喜び、しかしそれが自らのプレーが遠ざかる事実に愕然とし、そんな思考展開になる自分を憎み、嫌になりながらも、気持ちを入れ直し、再び戦いに挑む。

 GKは、精神的にぎりぎりの状態で生きることを余儀なくされている。

 例えば、弛まずトレーニングを積んでいても、たまに試合で抜擢してもらえたとき、ポカが出る。試合勘というのか。実戦特有の緊張にミスが出てしまう。

「やっぱり試合じゃ使えないよな」

 そこで、烙印を押される。

 もしストライカーだったら、奮起してゴールで取り返せばいい。どうにか、気持ちの切り替えもできる。GKもそれをするわけだが、いくらファインセーブをしても、失点という事実は変わらず、ミスは取り消されない。

 マイナスで評価される十字架を背負っているのだ。

最後の聖戦

「25歳を過ぎて、正GKがケガをしてようやく試合で使ってもらえる。気合いは入るけど、緊張がやばい。まるで最後の聖戦。負けたら終わりだなって。若いGKはどんどん入ってくるわけで」

 あるGKはそう洩らしていた。

 そんな精神状態で、ベストパフォーマンスができるだろうか? 大概は、リセットしたくなるような試合になる。切り立った崖に立った心境で90分間を過ごすのは、地獄に近い。

 ”最後の聖戦”に敗れた後は、契約終了を言い渡されるか。もしくは、セカンドGK、もしくはサードGKとしてバックアッパーの道を選択する。そのどちらかが有力だ。

成功したGKの共通点

 成功しているGKの多くは、若くしてポジションをつかんでいる。あるいは22歳前後で見切りをつけ、一つ下のカテゴリーに移籍。シーズンを通して活躍することで、GKとして成熟している。これは他のポジションの選手と同じだが、GKも試合に出ることによって、その技術を確固たるものとし、自信を持ったプレーができるようになるのだ。

 日本代表GKの面々は大概、若くして試合経験を得ている。カテゴリーは関係ない。

 中村航輔(柏レイソル)、シュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)は、期限付き移籍のJ2でプレーした経験を武器に、J1でも定位置を手にした。林卓人(サンフレッチェ広島)も、J2でのプレーした経験がベースになっている。川島永嗣(ストラスブール)は高校からJ2だった大宮アルディージャに入団したことが、むしろ幸いしたか。2年目で出場機会を得て、実績を積んだ。

GKと運

 そんなGKは、強運が必要だとも言われる。

 例えば、スペインの守護神として欧州王者、世界王者になったイケル・カシージャスは、十代のときに第3GKとして登録されていたが、第1,第2GKが相次ぐ故障に見舞われる。思いがけず、お鉢が回ってきた。そこで、ポテンシャルの高さを見せたのだ。

「こんなシュートを止められるのか!?」

 強烈な印象を植え付け、その後、復帰したGKが不安定なセービングを見せる中、目覚ましい台頭を見せた。

 東口順昭(ガンバ大阪)もアルビレックス新潟で若くして正GKの座に恵まれたが、そのときも第1,第2GKがケガに見舞われている。天命を受けるように、足掛かりを手にしたのだ。

 もっとも、能力があるからポジションをつかみ取れる、とも言える。しかし鶏が先か、卵が先か。カテゴリーを下げても、プレー経験は不可欠だ。

 さもなければ、永遠にセカンドGKとして年を取る。

「ダイ(前川黛也)は試合に出てプレーする機会がなかった。素晴らしい能力を持っている。プレーすることで、もっと良いGKになる。楽しみな才能だ」

 ヴィッセル神戸を率いていたファンマ・リージョ監督は、若手GK前川のポテンシャルを高く評価。先発に抜擢した。

 前川はポカも多く出しているものの、同時に目を瞠るビッグセーブも見せている。

 最後の聖戦に至る前に、GKはどの舞台でもゴールマウスに立つべきだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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