Yahoo!ニュース

サッカー日本代表は誰のものなのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
3人に囲まれながら、ドリブルで突き進む中島翔哉(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

サッカー日本代表は誰のものなのか?

 5月18日、日本代表の西野朗監督が、(5月30日のガーナ代表戦に向けて)27人の代表メンバーを発表している。

 メンバー構成に関しては物議を醸しているが、誰を選び、誰を外し、というのは難しい選択を迫られるのだろう。(前任のヴァイッド・ハリルホジッチ監督解任は)自らが招いた事態とは言え、時間も限られ、いくら頭をひねっても、なかなか誰もが納得する代表にはならない。選ばれた選手に敬意を表するべきでもあるだろう。

 しかし、どこか違和感を覚えるメンバー発表だった。その感覚は一体、どこから来るものなのか――。

 サッカー日本代表は誰のものなのだろう?

 そういう感慨につながった。

日々更新される代表メンバー、スペインのケース

 ロシアワールドカップに挑むスペイン代表は、ジュレン・ロペテギ監督就任以来、無敗を突っ走っている。ロシアでもブラジル、ドイツと並び、優勝候補と言える。代表メンバーは同国の世界最高峰ラ・リーガを含め、プレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガなどの強豪クラブでレギュラーを取った者ばかりだ。

 もっとも、メンバーは固定されていない。ここ2年、常にアップデートされてきた。誰もポジションが確約されていない一方、誰にでも所属クラブでの結果次第でチャンスが与えられる。極めて健全な状態で、チームは強化されてきたのだ。

「ロペテギ監督は、常に自分たちのプレーを見てくれている。年齢や所属リーグに関係なく、自分が代表に呼ばれたのはその証拠だろう。選手にとって、見られている、というのはなにより力になる」

 MLS(アメリカのメジャーリーグサッカー)、ニューヨーク・シティFCのFWダビド・ビジャは語っている。

 36才になるビジャは2014年までのスペイン代表を支えたエースだったが、MLSに移籍したことで代表からは遠ざかっていた。しかしMVPを受賞し、得点を量産。アルバロ・モラタ、ジエゴ・コスタという二人のFWがコンディション不良だったことで、代表に返り咲いた。MLSは欧州のトップリーグに比べたらレベルは落ちるが、「一人のプレーヤーとして今、どれだけ充実しているのか」が選出の基本になっている証左だろう。

 公平性。

 それのみが、選手の士気を高め、本来のプレーを引き出す。

 ロペテギ監督はかつてUー21欧州選手権でともに優勝したメンバーに対し、強い愛情を持っている。しかし、私情は挟まない。当時からエースだったモラタはメンバー外になる可能性が濃厚である。さらに、予選でキーマンになったビトーロも、所属クラブでプレーできない状況を考慮し、やむなく外している。ポテンシャルの高さや実績は一つの要素だが、所属クラブで燻っている選手に代表の資格はない。

 その公平性こそが、選手の競争力を上げるのだろう。

欧州リーグで活躍した二人は落選

 その点、二人の選手はしっかりと公平性に照らし合わせられたのだろうか。

 中島翔哉(ポルティモネンセ)は今シーズン、ポルトガルリーグで二桁得点を記録し、目覚ましい活躍を遂げている。旬な選手。それは間違いない。自信の漲るドリブルで切り込む、それだけで相手は後ずさり。ミドルシュートも、スルーパスも選択肢を持っているからだろう。高いレベルのリーグで、外国人選手として、相応のプレーを見せ、結果を残した。

 また、堂安律(フローニンゲン)もオランダリーグで9得点、チーム年間MVPに輝いている。19才で"若手枠"、日本に少ない"レフティー枠"という捉え方もできる。その勢いはチームに与えてくれたはずだが・・・。

 残念ながら、二人は選ばれなかった。

 その一方で、所属クラブでろくにプレーできない、ベンチ外を続ける、ケガ明けでコンディションが分からない、という選手たちが選ばれた。結果を残した選手が外れる。一番大事な公平性が保たれていないのだ。

優れた監督は、どんな食材でも料理の腕を振るう

「ポリバレント性がない」

 それが、西野監督が中島を外した理由だという。もっともらしく聞こえるが、強い違和感が残る。

 代表監督は、スペイン語で「Seleccionador」(選出する人)という直訳があるくらい、選ぶことが仕事になる。つまり、どれだけ公平に選び、強いチームを作れるか。誤解を恐れずに言えば、戦術やスタイルなどでは二の次。結果を出した選手をもれなく選び、その選手たちを用い、戦い方を作り上げる。その逆であってはならない。

 選手の特性があってこそ、代表チームが存在するのだ。

 監督は料理人で、使う食材を決めつけるべきではないだろう。どこ産のキノコとどこの養鶏場の鶏しか使わない、ではなく、あまねく新鮮な食材を求めるべきで、なんなら野草でも、イノシシの肉でも、うまい料理を作る。そういう柔軟な腕を持っていなければならない。

 食材に合わせ、もとい、選手に合わせ、監督は料理の腕を振るうべきなのだ。

 ポリバレント性がない、と言われた中島は苦笑するしかないだろう。なにを今さら、と。イノシシが鶏肉の汎用性を求められたようなものだ。

健全な代表とは

 繰り返すが、代表でメンバーを選ぶのは難しい作業である。チームスタイルを想定した場合、どうしてもフィットしない選手はいる。しかし、今回のように直近の実戦結果が違う選手が混在する場合は、たとえ選手の枠を広げても、まずは人材を招集し、お互い競わせるべきだろう。

 さもなければ、集団は不健全な状態になる。

「なにも見てないんじゃん」

 多くの選手が呆れ、失望する。それはあってはならない。Jリーグでも開幕以来、目覚ましいプレーを見せてきた選手はいる。

 代表チームはまず、選手のものであるべきだろう。なぜなら、彼らの躍動だけがサッカーファンを興奮させ、その熱狂が選手をさらに奮い立たせる。そうして代表は奇跡を起こし、忘れられない感動につながるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事