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王者バルサの不安。バルサBが降格危機!

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサの未来を背負うMFカルラス・アラニャー(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 2017-18シーズン、FCバルセロナ(以下バルサ)は独走したままラ・リーガを制している。優勝の中身も、結果も、ほとんど文句をつけられない。絶対的な優勝劇だった。

 しかし、不安はある。

2部に所属するバルセロナB(以下バルサB)が7連敗を喫し、2部B(実質3部)降格危機を迎えて(38節終了段階で20位。19-22位が降格)いるのだ。

 バルサBはバルサのセカンドチームに当たる。下部組織「ラ・マシア」から育った選手たちが、チームフィロソフィを紡ぐ。リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、セルジ・ブスケッツ、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルトなどの主力はいずれもラ・マシア出身者。欧州のビッグクラブの中では、これだけ下部組織出身選手が中核を担うケースは他にない。

 ラ・マシアが軸にあるバルサにとって、バルサBが降格の憂き目に遭う、というのは、計り知れないダメージになるのだ。

ラ・マシアに希望はないのか?

 今年、上梓した「ラ・リーガ劇場」の取材で、筆者はバルサBの試合を訪れている。

 試合は開始早々、バルサBは軽やかに数本のパスを繋げ、相手ゴール前に殺到。まるで小さなバルサのようだった。その攻撃でこぼれたボールに、カルラス・アラニャーが反応し、そのまま持ち込むと、左足で叩き込む。10番を背負った攻撃的MFアラニャーは2016-17シーズンにトップデビュー済みで、その将来が嘱望され、今シーズン限りで退団することになったイニエスタの後継者候補でもある。

 アラニャー以外も、トップチームと同じ匂いのする選手が多かった。この日、アンカーに入ったオリオル・ブスケッツは、セルジ・ブスケッツと奇しくも苗字まで同じ。キャプテンのセルジ・パレンシアは、トップにいるセルジ・ロベルトと同じように複数のポジションをこなせた。左サイドバックのマルク・ククレジャは、プレーテンポこそ違うが、攻撃を好み、左利きで、ジョルディ・アルバの系譜を継いでいた。

 バルサBの位置づけはまさに「予備軍」。戦術スタイルはトップチームと変わらない。トップの戦力を高めるために存在している。

 それだけに、彼らは2部に居続ける必要があるのだ。

レベルの高い2部でバルサBを鍛える

 有力な若手を鍛えるには、バルサBが2部にいることが条件となる。なぜなら、3部以下では1部に引き上げた場合、力の差がありすぎる。そこで今シーズンのバルサBは2部に残留するため、ラ・マシア育ちの若手だけでなく、「1部で実績のある選手を獲得し、さらにすでに頭角を現している若手を入れ、バルサ色に染め、トップにあげる」という戦略で挑んでいる。

 リーグ前半戦、バルサBのエースとして君臨したホセ・アルナイスは、スペイン国王杯でトップデビューを飾り、ゴールも記録している。アルナイスは2部バジャドリードでプレーしていたアタッカーだったが、わずかな間でバルサ色に染まり、チームを牽引する存在になった。一人の勇躍によって、他の選手も活気づいた。

 2017年、バルサBは五分に近い星取だった。ところが、2018年に入ってから下降線を辿り、直近は7連敗。監督を更迭しても、好転していない。アルナイスが1月に股下に違和感を訴え(グロインペインか)、戦列を離れたことは一つの原因だろうか。

バルサBは解体か

 もし、このまま降格した場合、選手を引き留めるのは難しくなる。ポテンシャルを考えれば、3部では納得できない選手が多い。マティアス・ナウエル(ビジャレアル)、ビッチ―ニョ(パルメイラス)のようにローン選手は返却が濃厚。そしてパレンシア、ククレジャ、ブスケッツなどにはオファーは舞い込んでおり、去就が注目される。ごっそり主力が抜けた場合、昇格も厳しくなるだろう。

 しかし、希望がないわけではない。

 今シーズンのUEFAユースリーグで、バルサユースは欧州王者に輝いている。チーム最多得点のカルラス・ペレスやUー17W杯にも出場して活躍したFWアベル・ルイスなど逸材は多い。ハイチ系アメリカ人FWのコンラッド・デ・ラ・フエンテもその一人だろう。爆発的なスピードとゴール感覚を持ち合わせる。彼らをそのまま昇格させるだけでも、それなりの戦いはできる。

 もっとも、左サイドバックとしてすでにバルサBデビューも果たし、将来が嘱望されるファン・ミランダは契約更新を完了していない。もしバルサBが3部に落ちたら――。ユース選手もすべてバルサBを選ぶかは分からない。

ラ・マシアこそがバルサ

「ラ・マシアの選手たちをトップチームは積極的に登用すべし」

 バルサはその戦略を打ち出している。

 しかし実際は、ウスマンヌ・デンベレ、パウリーニョ、ネウソン・セメド、コウチーニョ、ジェリー・ミナなどを補強し、「ラ・マシア重視」には逆行している。アルダ・トゥラン、アンドレ・ゴメス、トーマス・ヴェルメーレンら、大金で獲得しながら稼働率が著しく低い選手も少なくなく、その点は問題視される。そしていくら好選手でも、外からの選手が増えすぎるとバルサ色は薄まり、やがて欧州の他のチームと変わらない存在になってしまうのだ。

 来季はバルサBでチーム得点王のMFアラニャーがトップ登録することになる。そのボールタッチやパスのリズムは、まさにラ・マシア=バルサ。イニエスタが退団する今、アラニャーのような選手が台頭しない限り、その将来は危ぶまれる。

 ヨハン・クライフが創ったラ・マシアは、バルサのすべてに近い。自身もラ・マシアで薫陶を受け、ラ・マシアを啓発することで最強バルサを作った名将ジョゼップ・グアルディオラは、こう語っている。

「クライフはバルサが進むべき道を示してくれた。我々はこの道を、決して外れてはいけない。彼が創ったこのプレーモデルは偉大で、継承して守っていくべきもの。これを失うことは罪である」

 5月12日、39節。バルサは敵地で強豪スポルティング・ヒホンと戦い、アラニャーなどのゴールで2-3と勝利を収めている。暫定で19位に浮上。残り3試合、未来のために負けられない戦いが続く。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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