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スペイン代表を応援する二人の女の子が白昼に暴行を受ける。スペインという社会の深層。

小宮良之スポーツライター・小説家
EUROに王者として出場するスペイン代表(写真:ロイター/アフロ)

EURO2016に向け、連覇中のスペイン代表がはジョージア代表がとテストマッチを行い、0ー1とまさかの敗戦を喫している。つまづき、とは言えるだろうが、大きな問題ではない。その戦力、実力は他を凌駕している。

しかし前々日に起きた一つの事件は、忘れていた影を落とした。

バルセロナの郊外で、「バルセロナ、スペイン代表とともに」という活動をしていた二人の女性が、横断幕を広げている(EUROのスペイン代表を応援するキャンペーン)と、白昼堂々、四人の若い男に襲われた。

「スペインのくそったれ。スペイン人はこっから出て行け!」

罵声を浴びせられ、殴られ、倒されて蹴りつけられ、唾をかけられた。

その映像がビデオで撮影されていたことで、社会問題の一つとして取り上げられている。四人の若者はすでに事情を調べられており、侮辱、傷害、暴行罪、さらに政治活動に関する犯罪としても考えられる。「5年以下の懲役と罰金」が科される可能性もあるという。

では、どうしてこんな暴力事件が起きたのか?

スペインは複合民族国家である。1970年代までは、フランコ将軍の軍事政権で、言語や文化の弾圧が行われていた。バルセロナを中心にしたカタルーニャ地方、ビルバオ、サンセバスチャン、ビットリア、ナバーラなどのバスク地方の人々は圧政に苦しんだ。初老の人たちは、その被害を直接受けている。もしくは、父母や親戚が受けた姿を目にしている。官憲になんの理由もなく連れていかれ、死ぬまで暴行を受けることもあった。当然、息子たちにもその話は伝承され、憎しみはまだ消えていない。

カタルーニャ、バスクで、「私はスペイン人だ」と誇る人はごくわずかだろう。カタルーニャ人、バスク人と彼らは名乗る。

弾圧を受けていた人々にとって、フットボールは唯一アイデンティティを取り戻せる方法だった。レアル・マドリーなどマドリーのチームを叩きのめすことで、溜飲を下げてきた。その彼らにとって、フットボールは今も自分たちのルーツをかき立てさせるツールなのである。

例えばバルサのジェラール・ピケは、しばしばマドリーの選手と衝突している。結果、スペイン国内で代表がプレーしたときには、ピケに対してブーイングが鳴り止まないという現象が起きた。それに対し、さらにピケが過激に反応。こうした問題は、常に底に沈んでいる。しかしちょっとしたきっかけで、かき混ぜられ、表出するのだ。

EURO2008でスペイン代表が欧州王者になったことで、全国的に応援する雰囲気は前よりは増した。しかし、それまでは無視される存在に近かった。カタルーニャ、バスクの人にとって、代表するのはバルサであり、アスレティック・ビルバオなどのクラブだったわけだ。皮肉にも、代表への期待が高まったことで、バルセロナで過激な人々を刺激したのかもしれない。

もっとも今回の事件に関しては、17%以上の失業率も関係している。若者に至って失業率は30%に迫る勢いとも言われ、その社会不安が暴力を助長しているのだ。

スペインでは、フットボールは社会の写し鏡なのである。

逆説すれば、スペイン代表がEUROで3連覇を果たせば、社会もつかの間でも好転するはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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