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ハリルJAPANに選ばれるだけが、サッカー選手の栄光ではない。

小宮良之スポーツライター・小説家
ベンチ前のハリルホジッチ監督。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

5月12,13日に行われる千葉合宿、日本サッカー代表候補28人のメンバーが発表されている。初めて代表に呼ばれた選手にとっては、高揚感があるに違いない。六反勇治のようにセカンドGKから移籍先で先発出場の機会を手にした選手はなおさらのことだろう。

しかし改めてサッカー代表チームとは、いかなる存在なのだろうか?

それは国を背負う選手の集団ということで選び抜かれた「サッカー界の頂点」のように語られる。事実、脚光を浴びる機会は多い。代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督は今や日本のマスコミを魅了しており、その一挙手一投足がニュースになっている。

しかし代表はサッカー界における頂上の一つであっても、絶対的存在ではない。所属するクラブチームでプレーし、活躍する。それが代表のベースにあるべきだろう。そして代表選手は必ずしもナンバー1の選手でもない。

「代表はinteresだよ」

かつて、スペイン代表歴のあるフランという選手が、皮肉を込めて話していたことがある。interesはスペイン語で、利害関係を意味する。

「代表は限られた人物たちによって動かされる組織で、結局はエゴに満ちた主観で運営されざるを得ない。これは誰が悪いのではなく、必然なのさ」

フランはそう言って吐き捨てた。

彼は代表に情熱を失い、EURO2000の後に自ら代表を退いている。90年代後半から2000年代にかけ、リーガエスパニョーラで旋風を巻き起こしたデポルティボ・ラ・コルーニャのエース的存在だった。その左足キックは芸術的で、バルセロナ、レアル・マドリーも魅了されてオファーを送っている。

「100億円積まれても故郷を動かない」とチームに留まった偏屈な男は、interesの理不尽さが許せなかったと言う。

interesとは、エゴ、主観でもあるだろう。

94年アメリカW杯を前に、カルロス・ムニョスというスペイン人FWは22得点を記録し、ロマーリオ、スーケル、コドロら各国エース級FWに次ぐ得点ランク4位だった。ところが、スペイン代表からは外れた。一方でバルサで一度も先発出場なし、わずか2得点のフリオ・サリーナスが選出されている。当時の監督であるハビエル・クレメンテの"好み"だったからだ。。

なんたる理不尽か? と思うはずだが、こんな例はサッカー界では世界中にいくらでもある。結局は、監督や一部の首脳陣が主観でメンバーを決定するしかない。

代表は各国の協会や連盟の一部関係者が決定する。それは例えば、各年代の代表で主力になった選手は、継続的に目をかけてもらえることを示唆している。各年代代表は情報が引き継がれていくわけで、そこにはinteresが生じる。しかし年代が合わない選手、例えばUー20のときに18才だったり、Uー23のときに19才だったりする"年下選手"は選ばれにくく、一端、その選から漏れると代表の壁はどんどん高くなってしまう。

メディアも、こうした理不尽さの片棒を担いでいる。例えば視聴率や部数を稼げる選手を手厚く扱う。フランが代表に選ばれていた当時、エースはラウール・ゴンサレスだった。地味な選手が得点に喜ぶ選手よりも、ラウールが必死にディフェンスしている顔が一面に踊る。

「その方が金になる」

まさに利害関係としてのinteresな理由である。メディアは監督に対してもスター選手を起用するように、ひたひたと圧力をかけることもある。

フランはそんな状況に辟易し、諦念し、自らその舞台から降りた。所属クラブで栄光をつかむ道を選択。彼は小さなクラブのエースとして欧州カップ戦で列強クラブを次々に打ち破り、国内ではリーガエスパニョーラ優勝、スペイン国王杯優勝を勝ち取っている。地元の英雄だ。それも、サッカー選手として一つの頂点だろう。

現在、日本でも代表の顔となる選手は決まっている。代表に選ばれること自体は素晴らしいし、リスペクトされるべきで、その戦いは注目されて然るべきだろうが、浮ついたイメージだけが独り歩きするようでは、どこにも行き着かない。

誰がメンバーに入るのか?

その関心が高いのは素晴らしいが、メンバー選考に絶対的価値が与えられるべきものでもない。冷静な視点が必要になるだろう。代表チームとして、どういった戦いを残すか、が問われる。

ちなみにスペイン代表の無敵時代を切り拓いたのは、ルイス・アラゴネス監督だった。ラウールだけが突出した状況になってしまったのは本人の責任ではなかったが、周りの選手は敵意と敬意を同時に抱くようになっていた。そんな不和な集団が勝ち抜けるはずはない。そこでアラゴネスは、プレークオリティも下がってきていたラウールを外す英断を下し、メディアから集中的非難を浴びながらも、EURO2008で栄冠を勝ち取った。

こうした"革命"を成し遂げた代表チームのみが、歴史の中でも燦然と輝き続けるのである。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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