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新年度、子どものスマホは大丈夫? 「SNSで性被害」「SNSでいじめ」「SNSで警察沙汰」・・・

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:イメージマート)

何かと不安定な新年度が始まり、子どもを持つ親にとって気がかりなのが、スマホ(スマートフォン)をめぐるトラブルだ。

ネットいじめ、盗撮投稿、SNS誘拐、歩きスマホ、過激コメント、個人情報流出、偽アカウント、ヘイト書き込み、自殺サイト、リア充自慢、児童ポルノ、ディープフェイク(偽画像)、デジタルタトゥー(入れ墨)、なりすまし被害など、トラブルの種を挙げればきりがない。

今そこにある危険とどう向き合えばいいのか。

スマホは生活必需品?

犯人の動機ではなく、犯罪が起きた場所に注目する「犯罪機会論」では、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。

「犯罪機会論」については、下記記事を参照されたい。

「門が閉まっていたら入らなかった」 20年を迎えた付属池田小事件はなぜ起きたのか

この原理原則をデジタル世界に当てはめれば、開放性が高く(入りやすく)、匿名性も高い(見えにくい)インターネットは、本質的に「犯罪が起きやすい場所」ということは明らかだ。

そうしたインターネットに出入りするスマホ。当然、様々な危険性をはらむわけだが、いつの間にか子どもたちに取り入り、その存在感は高まる一方だ。

スマホと切っても切れないSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)についても、子どもの利用者が大幅に増えている。

『モバイル社会白書(2021年版)』(NTTドコモ・モバイル社会研究所)によると、スマホ利用率は、小学3年で4割、小学6年で5割、中学1年で7割、中学3年で8割だという。

また、毎日LINEをする中学生は、近畿で8割、関東で7割、その他の地域でも5割に達する。同白書には、毎日LINEをする30代男性が7割、30代女性が8割と書かれていることから、子どもにとってのスマホは、大人並みの存在になりつつあるようだ。

こうした状況を踏まえて、スマホの小中学校への持ち込みを長らく禁止していた文部科学省が、2020年に中学校へのスマホ持ち込みを容認した。

大阪府や東京都では、すでに2019年には、小学校へのスマホ持ち込みを認めている。

「そんなことをしたら、犯罪に巻き込まれる」「いやいや、緊急時の連絡ができるから、むしろ安全になる」という意見から、「スマホがあれば、記憶はスマホに任せて、暗記型学習から課題解決型学習への転換ができる」「いやいや、スマホ依存で集中力が途切れ、学習能力は向上しない」といった意見まで、百家争鳴の様相を呈している。

子どもは「未来からの留学生」

さて、どう考えたらいいものか。

思考の方向性を見誤らないためには、未来予測、少なくとも、テクノロジーの進化を念頭に置いた方がよさそうだ。なぜなら、スマホは小さなコンピューターなのだから。

米フォーチュン誌の「世界の偉大なリーダー50人」に選ばれたこともあるピーター・ディアマンディスは、スティーブン・コトラーとの共著『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』で、「スマートフォンが、1970年代のスーパーコンピュータと比べて大きさは1万分の1、価格も1000分の1、性能は100万倍になった」「これからの10年で、100年分の技術進歩が起ころうとしている」と述べている。

すさまじいスピードで社会が変化しているというわけだ。

10年前を振り返ってみると、当時の新聞記事(高知新聞)が、「『ガラパゴス携帯(ガラケー)』と呼ばれる従来型の携帯電話が根強い人気という。日本の保有率は28.7%。スマホに駆逐されず、4人に1人以上が持っている。ガラケー派の身としては、なんだかホッとする」「情報の洪水の中で、人間の処理能力には限界もある。当面、かのダーウィンが『進化論』のヒントを得た、ガラパゴスの島にとどまるとする」と書いている。

この記事から、隔世の感を覚えるのは、筆者だけだろうか。

今後、手持ち型のスマホは、眼鏡型のスマホや時計型のスマホ、はたまたコンタクトレンズ型のスマホが登場するなど、多様化することが予想されている。

こうしたウエアラブル(着脱可能な)コンピューターを、「身体の拡張」ととらえる見方も広がっている。

オックスフォード大学のニック・ボストロムは、『スーパーインテリジェンス:超絶AIと人類の命運』で、「ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)はすでに、10億人以上の人々が利用している。これらのサイトで自分の個人情報をやりとりする人々が、自分の日常生活の視線映像をスマートフォンや眼鏡フレームに装着されたカメラで自動的に記録し、その動画データをサイトにアップロードしはじめる日がやがて訪れるのかもしれない。そのようなデータストリームは自動解析され、さまざまな目的用途に利用されうる」と述べている。

例えば、センサーによって健康状態を常時モニタリングする「かかりつけ医」のようなスマホは、その最たるものだろう。

とすれば、イギリスのテレビドラマ『ブラック・ミラー』(Netflixで配信中)が描いたような、テクノロジーが主導する世界も、まんざら絵空事ではないと思えてくる。

高感度センサーやビッグデータを利用した犯罪者の接近検知から、映像や音声を利用した犯行証拠の保全まで、スマホは犯罪防止の強力な武器になり得る。もちろん、悪用しようと思えば、犯罪遂行の強力な凶器にもなり得る。

利器か、それとも凶器か

なんだか話が自動車を連想させるかもしれない。確かに自動車は、文明の利器にも凶器にもなってきた。

「であれば、運転免許のように、スマホ利用にも規制が必要」という声が聞こえてきそうだ。しかし、車の自動運転が普及したら、運転免許証もどうなるか分からない。

それはともかく、未来を見据えると、やはり、テクノロジーの功罪を織り込んだ教育が鍵になってくるだろう。

スマホという武器を、ダークサイド(暗黒面)で使うか、ライトサイド(光明面)で使うかは、利用者の「知識」次第である。正しい「知識」が増えれば、「意識」も自然に変わるはずだ。

その意味で、ネットリテラシー教育は、スマホにまつわる人々の最大の関心事でなければならない。

狙うは、スマートフォンを使いこなし、スマートフォンに踊らされない「スマートな(賢い)人間」の育成。

その一助になればと思い、アニメ「どうしてスマホはあぶないの?」を制作した(公共政策調査会・保安通信協会の助成)。親子で一緒に、ぜひ視聴していただきたい。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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