2年前の今日、川崎市の登戸駅近くのスクールバス乗り場で、私立カリタス小学校の児童らが刃物を持った男に襲われ、2人が死亡、18人が重軽傷を負った。徒歩に比べて安全と思われていたバス通学を狙った凶行は、保護者や教師に無力感を与えた。

「スクールバスですら事件が防げないとすれば、対応が難しい」。事件直後、文部科学省の担当者はそう漏らしたという。マスコミの論調も、「無差別殺傷事件を防ぐのは現実的には困難」というものだった。しかし、本当に防げないのだろうか。

見守り強化を求めるのは酷

通常の犯罪では、ほとんどの犯罪者は「捕まりたくない」と思っている。これに対し、無差別大量殺害を意図した犯罪では、犯罪者は「死んでもいい」と思っている。実際、川崎殺傷事件の犯人も犯行後に自殺している。そのため、この種の犯罪は、「自爆テロ型犯罪」と呼ばれるのにふさわしい。

対策として、登下校を見守るボランティアを増やすことが提案されたが、自爆テロ型犯罪の阻止をボランティア活動の対象にすることは、危険極まりない。これを主張する人は、川崎殺傷事件で使われた刃渡り30センチの柳刃包丁を一度見た方がいい。下の写真の柳刃包丁は、これよりもはるかに短いが、それでも、この包丁を向けながら迫ってくる犯人を想像すれば、身の毛がよだつのではないだろうか。

スクールバス乗り場(筆者撮影)と柳刃包丁(Kurosuke88 at English Wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons)
スクールバス乗り場(筆者撮影)と柳刃包丁(Kurosuke88 at English Wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons)

包丁というよりもむしろ刀というイメージにとりつかれそうだ。見守り活動の強化を要請された住民ボランティアからも、「恐ろしいから活動をやめたい」という声が上がった。

くしくも、川崎殺傷事件が起きた同じ日に、さいたま市の路上で、刃物を振り回していた男に警察官が発砲し、被害を防いだ事件があった。やはり、拳銃を携帯している警察官にしか、自爆テロ型犯罪は阻止できないと言わざるを得ない。

生理学的な視点からの犯罪対策

問題は、どうすれば、犯人がターゲットを襲う前に、警察官が現場に駆けつけられるかだ。生理学的にその可能性を追求するツールに、「ディフェンダーX」というソフトウェアがある。生理的に起こる「ふるえ」を検知することで、犯罪を予測しようとするものだ。

人は、緊張したとき、動かしたくなくても、手が震えたり、声が震えたりすることがある。挙げた手が静止して見える場合でも、微妙に震えていることがあるという。身体的・精神的なストレスによる一過性の「ふるえ」は、顔の皮膚にも現れるらしい。

こうした顔の皮膚に現れる微振動から、人の緊張度を測定するのが「ディフェンダーX」である。このソフトを、すでに設置されている防犯カメラに搭載すれば、凶器を隠し持っている人をいち早く検知し、検知に成功した防犯カメラから、自動的に警察署や警察本部にアラームで通報できるかもしれない

川崎殺傷事件でも、犯人が利用した駅の防犯カメラに「ディフェンダーX」が入っていれば、犯人が凶器を携えて児童に近づく前に、自動通報を受けて駆けつけた警察官によって制圧されたかもしれない。

ディフェンダーX (C) 2021 ELSYS ASIA SECURITY SDN BHD
ディフェンダーX (C) 2021 ELSYS ASIA SECURITY SDN BHD

捜査カメラから防犯カメラへ

もちろん、「ディフェンダーX」が激しい緊張状態にある人を検知しても、なぜ緊張しているのかまでは、このソフトでは分からない。そのため、検知した人を犯罪予備軍とみなすことはできない。あくまでも、今ここで助けが必要な「声かけ対象者」と位置づける必要がある。

防犯カメラが設置されているだけでは、自爆テロ型犯罪を防ぐことはできない。「死んでもいい」と思っている犯罪者にとっては、防犯カメラに録画されるかどうかはどうでもいい。真の意味で「防犯」のカメラにするためには、犯行直前の犯罪者を発見するソフトの組み込みが不可欠である。それなしには、防犯カメラの実体は、事件発生後に活躍する「捜査カメラ」になってしまう。

「名医は既病を治すのではなく未病を治す」という。「クライシス・マネジメントからリスク・マネジメントへ」の発想だ。病気の治療に新薬を試すように、犯罪対策でも、可能性があるものを試してみてはどうだろうか。