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MSとOpenAIの提携、EUが調査検討 競争阻害を懸念

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
欧州委でデジタルや競争政策を担うマルグレーテ・ベステアー上級副委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会はこのほど、米マイクロソフト(MS)と、生成AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」を手がける米オープンAI(OpenAI)の提携関係がEU合併規制の審査対象になるかどうか検討していると明らかにした

欧州委「すべての利害関係者から意見を募集」

大手企業がAI技術への支配力を強めることで、中小企業の新規参入や成長を妨げることを懸念しており、マイクロソフトとオープンAIの提携もその一例になる可能性があるとみているようだ。

EUは2024年1月9日、仮想世界と生成AIの競争市場に関する意見や、これらの新たな市場においてEU競争法ができることについての意見をすべての利害関係者から募ると発表した。

加えて、「デジタル市場の大手企業と、生成AIの開発企業との提携が、市場に与える影響を調査している」とし、2社について言及。「マイクロソフトによるオープンAIへの出資がEU合併規則に基づき審査対象になるかどうかを検討している」と述べた。

欧州委でデジタルや競争政策を担うマルグレーテ・ベステアー上級副委員長は声明で、「仮想世界と生成AIは急速に発展している。これらの新しい市場においても健全な競争を持続することが重要だ」と述べ、「企業が成長して、革新的な製品を提供する妨げをつくってはならない」と強調した。

MS、オープンAIに130億ドル出資 クラウド提供

オープンAIは20年に大規模言語モデル「GPT-3」を開発した。22年11月にはこれを進化させたGPT-3.5を取り入れたChatGPTを公開した。するとわずか2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人に達した。オープンAIは23年3月、GPT-3.5をさらに進化させた「GPT-4」を発表。そしてChatGPTのほか、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」をはじめ、各種アプリやサービスがGPT-4を取り入れた。

マイクロソフトは業務用ソフト群「Microsoft 365」やオペレーティングシステム(OS)「Windows」にオープンAIの技術を導入するとともに、自社のクラウドコンピューティングサービス「Azure」をオープンAIに提供している。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、マイクロソフトがオープンAIに初めて出資したのは19年だった。当初の出資額は10億ドル(約1500億円)だったが、23年は100億ドル(約1兆4800億円)を追加投資したと報じられ、オープンAIへの総出資額は130億ドル(約1兆9300億円)に上ったとみられている。

MS、オープンAIの理事会にオブザーバー

英ロイター通信によると、これに先立つ23年12月、英国の競争・市場庁(CMA)は2社の資本・業務提携関係を事実上のM&A(合併・買収)とみなすべきかどうかについて意見を募集すると発表した。CMAはそれを踏まえ、正式な調査に進むべきかを検討する。

欧州におけるこれら2つの規制当局の動きは、23年末にオープンAIのサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)が理事会(企業の取締役会に相当)から突如解任され、その後復帰し、理事会が再編されたことと関連している。

このときの理事会の刷新で、マイクロソフトは議決権を持たないオブザーバーとして参加することになった。これにより、マイクロソフトがオープンAIへの影響力を強め、市場競争を阻害する可能性があると懸念されるようになった。

一方、マイクロソフトは「オープンAIとの提携は、両社の独立性を維持しながら、さらなるAI革新と競争促進につながっている」とし、「最近の変化は、マイクロソフトが オープンAIの理事会に議決権のないオブザーバーとして参加することだけだ」と述べた。

今後、欧州委がマイクロソフトとオープンAIの関係について本格的な調査を始めるかどうかは現時点で分かっていない。だが、ベステアー上級副委員長は声明で、「この業界で認識される競争上の問題について意見を聞くとともに、AI企業の提携が市場競争を不当にゆがめないよう注意深く監視していく」と述べた。

欧州委が問題があると判断した場合、2社は提携内容の見直しや、場合によっては解消を迫られる可能性がある。

※1ドル=148.17円で換算

筆者からの補足コメント:
AIの商用化を進めるMSやオープンAI、グーグルなどに対して、懸念を表明する人も出ています。そのうちの1人が、AI研究の第一人者と呼ばれ、昨年グーグルを退社したジェフリー・ヒントン氏です。同氏は米紙とのインタビューで、インターネットが偽の写真、動画、テキストで埋め尽くされ、一般の人々が「もう何が真実か分からなくなる」と語り、急速に普及する生成AIとその開発競争に警鐘を鳴らしています。同氏によれば、AIはしばしば、膨大なデータの中から予期しない振る舞いを学んでしまう。このことは、人間がコンピューターコードを生成させるだけならば問題ない。しかしそのコードを実際に実行することを許可した場合は問題だと危惧しています。完全自律型兵器(キラーロボット)が現実のものになることに恐怖を感じているといいます。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年1月16日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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