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Amazon、自社ブランド大幅削減 貢献低いがリスク高

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムが、数十に上るプライベートブランド(PB)を廃止すると、米ウォール・ストリート・ジャーナル米CNBCが報じている。売り上げへの貢献度が低い一方で、反トラスト法(独占禁止法)当局からの競争慣行への厳しい監視があり、リスクが高いと判断した。

アマゾンのPB、20未満に削減

関係者によると、アマゾンは過去1年で、「Lark & Ro(ラーク&ロー)」や「Daily Ritual(デーリー・リチュアル)」、「Goodthreads(グッドスレッズ)」など30種のアパレルブランドのうち、27ブランドの廃止を決めた。

一部ブランドの商品は今もアマゾンのEC(電子商取引)サイトにあるが、在庫がなくなり次第販売を終了する。これにより、アマゾンの衣料品PBは、①「Amazon Essentials(アマゾン・エッセンシャルズ)」、②「Amazon Collection(アマゾン・コレクション)」、③「Amazon Aware(アマゾン・アウェア)」、の3つのみになる。「Rivet(リベット)」や「Stone & Beam(ストーン&ビーム)」といった家具ブランドも廃止する方針だ。

他の分野で廃止されるPBの正確な数は分かっていない。電子機器のアクセサリーや家庭用品など幅広い商品のブランドである「Amazon Basics(アマゾン・ベーシックス)」は引き続きPB事業の重点分野になるという。

アマゾンのPB担当副社長、マット・タディ氏は「我々は顧客のニーズに基づいて決断を下すよう常に心がけており、顧客がAmazon BasicsやAmazon Essentialsなど高品質で低価格ブランドを求めていることを学んだ。共感を得られない商品は廃止する」と述べた。

同社が2020年に開示した資料によると、当時同社は45の自社ブランドを展開し、24万3000種の商品を販売していた。だが、関係者は、アマゾンが自社ブランドを20を下回る数に減らし、それらブランドに向けた何万種もの製造をやめたと話している。

段階的に廃止されるブランドについては、新しい商品の発注は行わず、在庫がなくなり次第販売を終了する。廃止されたブランドの売れ筋商品は、Amazon Essentialsなどの存続するブランドの下で販売を継続する。

アマゾンPB事業、コスト削減対象に

アマゾンは、不採算事業に焦点を当てた事業見直しを進めており、実店舗を閉鎖したり、先進技術研究部門をはじめとするオフィス職の人員を削減したりしてきた。コスト削減策は同社のさまざまな部門に及んでおり、今回のPB削減もその一環だという。

アマゾンがPBの立ち上げを本格化させたのは16年だった。それ以降、事業拡大に向けてさまざまなPBを開発してきた。19年時点ではその数が120種以上に上ったと伝えられた。だが、22年になると販売不振に直面した。加えて、アマゾンサイトで商品を販売する業者(出品者)との競合を懸念する米議員などからの批判を受けた。

FTCがアマゾン提訴、反トラスト法違反の疑い

23年9月26日、米連邦取引委員会(FTC)と米17州の司法長官らは、アマゾンが反トラスト法に違反したとして、米西部ワシントン州連邦地方裁判所に提訴した。FTCが問題視したのは、外部の小売事業者がアマゾンのECサイトで商品を販売するマーケットプレイスにおける商慣行だ。

FTCが主張する具体的な反競争的行為とは主に、①出品者がアマゾン以外のECサイトで、アマゾンよりも安価に商品を販売することを阻止する反ディスカウント措置、②出品者がアマゾンの物流サービスや広告サービスを利用することを事実上義務化した強制行為、の2つだ。

これに対し、アマゾン側は「FTCは、価格競争力のある商品を目立たせたり、アマゾンでの価格を他社ECサイト並に低くすることが価格上昇につながると主張するが、市場競争はそのような仕組みではない」と述べ、「もしFTCが勝訴すれば、結果は反競争的かつ消費者に不利なものになる。反トラスト法の目的と矛盾する」とも付け加えた。

「FTCが提起した訴訟は、事実と法の両面で誤っており、裁判所で主張することを楽しみにしている」(アマゾンのグローバル公共政策・法務担当デビッド・ザポルスキー上級副社長)

FTCによるこの訴訟の対象は、出品者の商品価格と、出品者とアマゾンの関わり方に関するものでPB商品とは直接は関係ない。

ただ、アマゾンのPB商品を巡っては20年に、同社の従業員が出品者の販売データを不正に収集し、自社商品の開発に利用していると報じられた。この報道の後、アマゾンの創業者で当時のCEO(最高経営責任者)ジェフ・ベゾス氏は、米議会の下院司法委員会で証言を求められた経緯がある。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アマゾンにおけるPB事業の売上高は、同社小売事業売上高のわずか1%にとどまる。つまり、反トラスト法関連のリスクに比べて事業規模が小さい。

アマゾンの広報担当者は声明で、「(当社では)非公開かつ単独販売業者のデータを、PB商品立ち上げのために使用することを明確に禁止している。当社のポリシーは、当社が知るどの小売業者よりも徹底している」と述べている。

筆者からの補足コメント:

筆者からの補足です。就任から2年がたったアマゾンのアンディ・ジャシーCEOはコスト削減・抑制策を推し進めています。先ごろの決算(23年4〜6月期)では、その効果が明確に表れました。同四半期の営業利益は前年同期から2.3倍の76億8100万ドル(約1兆1000億円)でした。営業費用は1267億200万ドル(約18兆900億円)で、伸び率を7%台に抑えました。また、売上高は1343億8300万ドル(約19兆1900億円)で、前年同期比11%増と、増収率が3四半期ぶりに2桁になりました。純損益は67億5000万ドル(約9640億円)の黒字で、前年同期の20億2800万ドルの赤字から黒字に転換しました。ブライアン・オルサブスキーCFO(最高財務責任者)は「これまでの進展に満足しているが、今後もコスト効率を向上させるための機会が増える」と述べ、コスト削減を継続する考えを示しました。

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年8月17日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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