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Google、中国本土の翻訳サービスから撤退 背景に競争激化、規制強化、強力な検閲体制

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米グーグルが、中国本土の翻訳サービスから撤退した。広報担当者は「利用が少ないため、中国本土でのグーグル翻訳を廃止した」と説明した。

西側企業の事業活動困難

すでにウェブサイト版とアプリ版のいずれもが利用できなくなっている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ウェブブラウザーで中国本土版のグーグル翻訳にアクセスすると、香港版にリダイレクトされる。しかし、中国本土からは読み込みに失敗するという。

現地企業との競争、より厳しい規制環境、厳格なインターネット検閲体制を背景に、西側企業の事業活動が困難になっており、中国から撤退する動きが広がっていると同紙は報じている。今回のグーグル翻訳の停止はその最新の動きだという。

検索、メール、動画、地図、アプリストア

グーグルはかつて、中国で検索サービスを提供していたが、同国からの電子メールサービスに対するサイバー攻撃や、当局に強いられていた検閲に従えないとして、2010年にサービスを停止した。その一方でサーバーを香港に移し、香港経由で中国本土向け検索サービスを提供した。だが、その後中国当局が動き、アクセスが遮断された。

メールサービス「Gmail」や動画共有サービス「YouTube」、地図サービス「Google Maps」なども利用できず、Android搭載スマートフォンにはグーグルのアプリストア「Google Play Store」が入っていない。

こうした中でも同社は中国事業の維持・拡大を模索した。17年に中国本土向けに翻訳アプリの改良版をリリース。18年には検索サービスの中国市場への再参入も検討した。だが、米国の従業員や議員からの反発を受け、断念した経緯がある。同社は北京に人工知能(AI)の研究開発拠点を構えていたが、19年に閉鎖した。

アマゾンやリンクトイン、エアビーも撤退

こうした中、中国では独自のインターネット企業が台頭し、グーグルなどの西側企業の代替サービスとなっている。検索サービスでは、百度(バイドゥ)と騰訊控股(テンセント)傘下の捜狗(ソーゴウ)に人気があり、この2社は翻訳サービスも提供している。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、グーグルは中国で一部の事業を続けている。例えば「Chrome」は中国で最も人気のあるパソコン版ウェブブラウザーだという。中国の電子商取引(EC)サイトでは、地場業者がグーグルのスマホ「Pixel」やスマートスピーカー「Nest」を販売している。

ただ、中国では検索をはじめ、料理宅配や配車などさまざまな分野で地場企業が代替サービスを提供中だ。これが、米国のテクノロジー企業の事業閉鎖につながっているという。

米アマゾン・ドット・コムは22年6月、中国国内での電子書籍サービス「Kindle(キンドル)」から撤退すると明らかにした。アマゾンは19年に中国国内向けの「マーケットプレイス」事業からも撤退。同国市場におけるシェアの低さが要因とみられている。

米マイクロソフト傘下でビジネス向けSNS(交流サイト)を運営する米リンクトインは21年に中国版を閉鎖した。当局の規制強化により事業継続が困難と判断した。民泊仲介大手の米エアビーアンドビーは22年5月、中国本土のサービスを停止すると発表。競争激化と「ゼロコロナ政策」が重なり事業環境が悪化したと説明した。

  • (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年10月5日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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