Yahoo!ニュース

Amazonのプライムデー、インフレが消費行動に変化 大幅値引に目もくれず、買うのは必需品のみ

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムの会員向け大型セール「プライムデー」では通常、ルンバ(ロボット掃除機)やインスタントポット(マルチ電気圧力鍋)などの家電製品が売れ筋商品となる。

40年半ぶり高インフレ、売れ筋に変化

だが、今年(2022年)は、食器用洗剤や紙おむつ、スナック菓子などの生活必需品や食料品の販売が好調となり、いつものプライムデーとは異なる消費行動が見られた。

アマゾンは22年7月12〜13日にプライムデーを開催した。今年のイベントで人気があった商品を見ると、記録的な高インフレが消費行動に変化を及ぼしたことが分かる。

米労働省が22年7月13日に発表した同年6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%上昇し、40年半ぶりの記録的な水準となった。

また、8月10日に発表した7月のCPIは、は前年同月比で8.5%上昇。6月の9.1%から縮小したものの、食品や住居費、電気代などが上昇しており、依然記録的な高い伸びが続いている。

物価高騰が続く中、米国の消費者は高額商品の購入を控えたり、割安の食料品や日用品をまとめ買いしたりしている。

2日間のオンライン販売1.6兆円、過去最高を更新

プライムデーの開催に先立ち、米JPモルガン・チェースのアナリストは、22年の同セールの販売額が56億ドル(約7700億円)となり、前年比5%の伸びにとどまると予測した。JPモルガンによると、21年におけるプライムデー販売額の前年比伸び率は9%、20年は50%だった。

アマゾンは、プライムデーの販売額を公表していない。ただ、同社が22年7月14日に出した声明によると、今年は期間中の2日間にこれまでで最も多い3億点以上の商品が売れ、アマゾン史上最大のプライムデーとなった。全世界のプライム会員は2億人を突破し、会員はセールを通して計17億ドル(約2300億円)以上を節約できたとしている。

米国では、ディスカウントストア大手のターゲットや家電量販大手ベストバイなどが、プライムデーに合わせてそれぞれのセールを開催した。米アドビによると、22年7月12〜13日の2日間、米国のオンライン販売総額は119億ドル(約1兆6400億円)となり、過去最高を更新。前年のイベント時と比較し8.5%増加した。

米国人9割が食品価格の高騰懸念

こうした調査結果を見ると、インフレはJPモルガンが懸念していたような悪影響を及ぼしていない。だが、金額以外のデータを見ると、明らかに変化が生じていると専門家は指摘する。

出品者向けEC広告管理サービスを手がける米パクビューの共同創業者であるメリッサ・バーディック氏は、「消費者はぜいたく品ではなく、実用的な商品を購入している。アマゾンブランドのゴミ袋やカスケードブランドの食器用洗剤などの生活必需品だ」と述べている。

米市場調査会社のハリス・ポールによると、食料品の値上げが多くの米国消費者にとって最大の懸念事項になっている。米国人の9割が食品価格の高騰を心配しているという。

また、プライムデーの消費動向を分析している米調査会社のニューメレーターによると、期間中のアマゾンでの平均注文金額は52.26ドル(約7220円)で、21年6月に開催したプライムデーの44.75ドル(約6180円)から16.8%上昇した(米ウォール・ストリート・ジャーナルの記事

消費者は高額商品を避け、より低価格の商品を購入したという。プライムデーで売れた商品のうち約58%が20ドル(約2760円)未満だった。100ドル(約1万3800円)以上の商品はわずか5%だったという。

ニューメレーターのアンケート調査によると、プライムデー利用者の約34%が、「割引価格で購入するためにプライムデーを待った」と回答。また28%が「必需品でないため、セール品の購入を見送った」と答えた。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年7月20日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

小久保重信の最近の記事