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Apple Musicをテコ入れか、競争激化の音楽配信は新局面

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 米アップルが、音楽認識アプリ「Shazam(シャザム)」を手がける、英シャザム・エンターテインメントを買収したことが明らかになった。

 昨年12月、さまざまな海外メディアがこの買収に関する観測を伝えていたが、まもなくして、アップルがこれを認めた。アップルが企業買収について明かすことは少なく、このときの同社のメディア取材への対応は異例だと話題になった。

シャザムの利用者数は10億人

 シャザムは、街角で流れている音楽や、テレビなどで流れる音楽を聞き取り、それがどんな楽曲なのかを認識し、教えてくれるアプリ。

 アプリ内では、認識結果に基づき、YouTube動画から同じ楽曲を探して表示したり、アップルなどの音楽サービスで、再生したり、購入したりできる。

 アップルはシャザムと、アップル製機器に備わる音声アシスタントサービス「Siri」でも連携している。この場合、利用者は、シャザムのアプリを使わなくてもよい。

 Siriを起動し、「この曲は何?」と尋ねる。するとSiriが「もう少し聞かせてください」などと返事をしたあと、5秒ほどで楽曲名、歌手名、画像を表示。これに合わせ、「iTunes」や「ミュージック」などの音楽アプリを立ち上げ、同社の音楽配信サービス「Apple Music」で聴けるようにする。

 シャザムが英国でこの音楽認識サービスを始めたのは2002年。当初、利用者は携帯電話でシャザムの専用番号に電話をかけ、楽曲を聞かせて認識してもらい、その結果をテキストメッセージで受け取っていた。

 同社は2004年に米国でもサービスを始めたが、この時点でまだ利用者は少なかった。それがブレークしたのは、アップルが初代iPhoneを発売した翌年の2008年。この年、シャザムがスマートフォン向けのアプリを開発して公開すると、利用者は右肩上がりで伸びていった。

 シャザムの2015年10月時点における利用者数は7億5000万人。同社はその後の利用者数を公表していないが、ドイツの市場調査会社スタティスタは、2016年末時点で10億人に達したと推計している。また、2016年9月時点の1日当たりのアプリ利用回数は2000万回に上ったという。

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シャザムの利用者数推移(インフォグラフィックス出典:独スタティスタ)

Apple Musicの利用者数は3000万人

 アップルは、シャザムの買収金額など、詳細について明らかにしていないが、米メディアによると、4億ドル(約450億円)規模の取引。

 これは、同社が2014年に買収した、オーディオ機器製造・音楽配信サービスの米ビーツ・エレクトロニクスに投じた30億ドル(約3400億円)に比べて少ない。だが、アップルは今回も同様に買収によって、音楽サービスの強化を図ると見られている(米ウォールストリート・ジャーナル

 というのも、アップルは、音楽配信の市場で、その地位を失いつつあるからだと、ウォールストリート・ジャーナルは指摘している。かつて市場で最大のシェアを占めていたダウンロード販売は低迷が続いている。

 そうした中、2015年6月に始めた定額制ストリーミング配信サービスのApple Musicは、現在、利用者数が約3000万人。これは英スポティファイの有料会員の半分程度にとどまっている

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音楽配信サービスの利用者数(インフォグラフィックス出典:独スタティスタ)

スマホに続くか、AIスピーカーの音楽配信

 さらに、この市場では新たな展開が始まっている。売れ行きが好調なAIスピーカーと、音楽配信サービスの相性が良いと見られており、ライバルがこの分野で攻勢をかけている。

 例えば、米アマゾン・ドットコムは、先ごろ、Apple Music対抗の定額制音楽配信サービス「Amazon Music Unlimited」の提供国を世界28カ国以上に増やすと発表。AIスピーカー「Echo」の販売拡大とともに、連携サービスの拡充を図っている。

アマゾン、Echoだけじゃない、日本に上陸したのはApple対抗音楽サービス(小久保重信) -Yahoo!ニュース個人

(このコラムはJBpress2017年12月13日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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