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ロシアが新型ロケット「アンガラ」の打ち上げに成功

小泉悠安全保障アナリスト

※この記事はWorld Security IntelligenceのWSI Dailyに掲載された記事に一部加筆したものです

新型ロケットの打ち上げに成功

2014年7月9日、ロシア航空宇宙防衛部隊(VVKO)は、アルハンゲリスク州にあるプレセツク宇宙基地からアンガラ1.2PPロケットを打ち上げた。

アンガラは標準モジュール(URM)を組み合わせることで小型から大型まで多様な打ち上げ能力を実現できるロケットとして1994年からフルニチェフ社で開発されていたが、資金不足や開発能力の低下に難航。

2014年6月にはようやく打ち上げの運びとなったが、発射直前にロケットの自己診断プログラムが不具合を検知して自動中止するというトラブルがあった。

今回は初打ち上げということで(アンガラ1.2PPのPPとはロシア語の「初飛行」の頭文字)軌道まで到達することはせず、ロケットは模擬ペイロードを放出した後にカムチャッカ半島にあるクラ射爆場に落下したと見られている。

したがって、今回の打ち上げはまだアンガラの完全な実用化を意味するものとまでは言えない。

それでも、前述のようにアンガラが長きにわたる開発の困難を乗り越えてきたことを考えれば、今回の初打ち上げは画期的であったと言えよう。

ソ連崩壊後初の完全国産ロケット

アンガラシリーズの模型。モジュールの組み合わせにより、様々なサイズがある
アンガラシリーズの模型。モジュールの組み合わせにより、様々なサイズがある

今後はより大型のアンガラA5などのバージョンによる発射試験が控えているが、こちらが成功すれば、ウクライナ製の誘導システムなどを使用している現行のプロトン-Mロケットに依存する必要がなくなり、ロシアの宇宙アクセスに対する自律性が高まることも見込まれる。

プロトン-Mは現在のロシアが保有するロケットの中で唯一、静止衛星の打ち上げ能力を持つ大型ロケットであり、その重要コンポーネントをウクライナに依存していることは大きな安全保障上の問題であった。

プーチン大統領は、ウクライナ政軍用部品などを国産品で代替する計画の策定を閣僚らに支持したばかりであり、完全国産ロケットの打ち上げ成功は政権にとっての追い風ともなろう。

しかも、プロトン-Mは危険なゲプティール系燃料を使用しているためにバイコヌール宇宙基地があるカザフスタン政府との間でトラブルになっていたが、アンガラは安全なケロシン系燃料を使用する上、今後は極東に建設中の新宇宙基地ヴォストーチュヌィへと射場自体を移転させる計画である。

これにより、ロシアはソ連崩壊後初めて、外国に依存することなく宇宙にアクセスする能力を獲得することになる。

※この記事はWorld Security IntelligenceのWSI Dailyに掲載された記事に一部加筆したものです

安全保障アナリスト

早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、国会図書館調査員、未来工学研究所研究員などを経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。主著に『現代ロシアの軍事戦略』(筑摩書房)、『帝国ロシアの地政学』(東京堂出版)、『軍事大国ロシア』(作品社)がある。

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