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金正恩「盛りすぎ画像」に国民は怒り心頭「あまりにバレバレで腹が立つ」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
近衛ソウル柳京守第105戦車師団を視察する金正恩氏(労働新聞)

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちが食卓を囲む一枚の画像が大炎上した。

朝鮮人民軍、とりわけ下級兵士は、コロナ前の食糧状況がまだマシだったころから、飢えに喘いでいる。協同農場から出荷された軍糧米(軍向けの穀物)、軍部隊に届くまでの過程で、市場に横流しされ、中身を安くて栄養のないものに入れ替えられ、すっかり目減りしてしまう。常に腹をすかせている彼らは、食べ物欲しさに農場や民家を襲撃する。国境を超えて中国で強盗、窃盗を働くことすらあった。

そんな中で、金正恩総書記が先月24日、近衛ソウル柳京守(リュ・ギョンス)第105師団を視察したとの報道が流れた。配信された画像には、兵士たちが山盛りの銀シャリ、唐辛子のいっぱい入った辛そうなスープ、新鮮な肉に野菜、さらには果物まで並べられた食卓を囲み、食事をしている様子が収められていた。普段の兵士らの食生活を考えると、あまりにも盛りすぎの画像だ。

プロパガンダ臭のプンプンする写真だが、これを見た軍人も民間人も怒りをあらわにした。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

国営メディアは部隊の軍事力を見せつけるような画像を複数枚配信しているが、人々が注目したのはそれらではなく、兵士が食事をしている数枚の画像だ。清津(チョンジン)市民は、こんなリアクションをした。

「報道の目的は国防力と経済力を見せつけて国民にプライドを持たせようというものだろうが、これ見よがしのプロパガンダと現実が全く違うことを見せつけられ、大きく失望した」

中でも、兵役を終えた元軍人は怒り心頭だ。

「兵役中にあんなの(食べ物)が出されたことはない。誕生日にも何も出してくれない。除隊軍人は鼻で笑っている。プロパガンダがバレバレで頭にくる」

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

口さがない人はこんな辛辣な批判をした。

「朝鮮民主主義人民共和国は詐欺の天才」

「自分たちの望みは何ひとつ叶わない」

「自分たちの生活に何ら(いい)影響はない」

コロナがようやく明けた今でも、北朝鮮では深刻な食糧難が続いている。それもこれも、市場に奪われていた穀物流通の主導権を国の手に取り戻そうとする金正恩氏の政策の混乱が招いたものだ。それだけに国民の恨みは深い。

大炎上ぶりに慌てた保衛部(秘密警察)が動き出した。しかし、誰も彼もが金正恩氏の画像を罵っていて、全員を捕まえるわけにはいかない。結局、行政機関や企業所、団体、人民班(町内会)を通じて、元帥様(金正恩氏)の視察に対してあれこれ言う者は重罰に処すと警告するのが関の山だった。

保衛部は「最も資本主義化」していて、デマの温床となっているとして、市場の管理員と商人を集めて、裏でコソコソ部隊の話をすれば重罰に処すと警告した。全国有数の規模を誇る水南(スナム)市場では、余計なことを言ったり、元帥様の視察を非難している者がいれば、すぐに通報せよとの指示を下した。

全国から商人が中国製品の買い付けにやってくる水南市場だけあって、ここを取り締まらなければ噂が全国に広まってしまう。保衛員(秘密警察)は、売台(ワゴン)を一々監視して、視察を批判したり、囁いたりする者はいないか目を光らせ、もし見つけたらすぐに通報するように指示した。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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