「朝鮮王朝時代と何が違うのか」金正恩が生んだ現代の“悪代官”たち
北朝鮮の平安南道(ピョンアンナムド)北部にある穀倉地帯「十二三千里平野」では、飢餓が広がっている。毎年春は、前年の収穫の蓄えが底をつく春窮期が訪れるが、食べ物もなければ買うカネもない「絶糧世帯」が急増している。中央はこれと言った対策を取らず地方に丸投げし、地方官僚は悪代官のようにふるまっている。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、安州市の祥瑞里(サンソリ)の農場では、農民に対してトウモロコシが配られた。そうは言っても、無料での配給ではない。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
「絶糧世帯には2カ月分の食糧としてトウモロコシが供給されたが、これは年末の決算分配から天引きされる」(情報筋)
年末の決算分配、つまり秋の収穫の結果に応じて配られる農産物を「前貸し」したものに過ぎない。これを「換穀取引」という。今までのトンジュ(金主、ヤミ金業者)から借りて秋に2倍にして返すものよりはマシだが、借金まみれになることには変わりない。
一般的に北朝鮮の協同農場は5から11の作業班からなり、ひとつの作業班には80人から100人が所属している。今回、トウモロコシを受け取ったのは、各作業班で20人から30人になる。つまり、最も多いケースでは4割近くが絶糧世帯に陥っているということになる。こんなことは今までになかったとのことだ。
別の情報筋は、粛川(スクチョン)郡の検興里(コムンリ)協同農場でも、絶糧世帯に「換穀」の形で2カ月分のトウモロコシが配られたと伝えた。今まで、この時期にトウモロコシを受け取るのは、田起こしで活躍する牛を管理している人に限られていた。
「農場に出てこれない絶糧世帯を農場が責任を取れとの中央の内部指示があったから」(情報筋)
機械化の遅れている北朝鮮農業において、働き手の確保は収穫量に影響を与える。そこで「とりあえず食べさせて働かせろ」との指示が出たのだろう。
検興里協同農場など畑より田んぼを多く所有する農場は、備蓄が多く問題なく供給が行えたが、安州市の雲興里(ウヌンリ)のように、湖に接している干潟からなる農場は、備蓄穀物が少なく、絶糧世帯に何も配れなかった。
この農場主導の「換穀」の評判について情報筋は、「トンジュから長利米を借りるしかなかった農民が、当局から換穀を受け取って喜んでいる」とする一方で、「春窮期に当局が農民に穀物を渡し、秋になったら回収するやり方は、朝鮮王朝時代と何が違うのか」と疑問を呈する人もいる。