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北朝鮮の13歳少女に下された「緩慢な処刑」の残酷な日々

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

韓国の黄浚局(ファン・ジュングク)国連大使は今月3日、児童と武力紛争をテーマにした国連安全保障理事会の会合で、北朝鮮で児童が韓国ドラマを見て「流布」したとして死刑を宣告されるなど、深刻な人権蹂躙が横行していると批判した。

黄氏は「児童」と述べているが、北朝鮮で韓国ドラマがらみで極刑を下されたとの情報があるのは高校生以上のケースだ。もちろん、高校生以上であっても深刻な問題であることに変わりはない。

一方、銃殺のような直接的な方法ではないが、より幼い年齢で死に追いやられている例もある。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)郡は、豆満江を挟んだ対岸に、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の図們市がある。同郡に暮らしていた40代男性と13歳の娘が2021年3月、脱北を図った。

この男性は、国境地域に住む他の人々同様に、中国との密輸で生計を立ててきた。ところが、北朝鮮政府は2020年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐため国境を封鎖して貿易を停止、国境警備を今まで以上に強化した。父子はたちまち生活苦に直面した。

にっちもさっちも行かなくなった男性は、脱北を決断した。娘には、国境の川のそばに特定の場所に身を潜めて待っているから、午後6時までにそこにやってこいと伝えた。

娘は言われたとおりに川に向かったが、途中で国境警備隊に捕まってしまった。「どこに行くのか」と詰問された彼女は、恐怖のあまり正直に答えてしまった。

「お父さんと一緒に渡江(脱北)することにした」

逮捕された父親は取り調べで、「食べるものがなく飢えていた、他に方法が見つからず、死を覚悟して娘とともに脱北しようとした」と供述した。

その後の父親の行方は定かではないが、コロナ非常防疫体制下で脱北に失敗した人々を巡っては、処刑されたとする情報が少なくない。運が良くても管理所(政治犯収容所)送りは免れなかったはずだ。

(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面

父親といっしょに逮捕された娘は4日後に釈放されたが、面倒を見る者がおらず、ひとりで家に籠もり、飢えに耐えるしかなかったという。通常、孤児になれば初等学院(孤児院)に収容されるが、現地情報筋は、親が脱北を試みたことから、収容されるかは微妙だと述べていた。食糧配給抜きのロックダウンが繰り返された当時、幼い少女がひとりで取り残されたら、生き延びる術はほとんどなかったはずだ。彼女に下された罰は、死ぬまで放置する「緩慢な処刑」だったと言っても過言ではないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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