「上級国民」御用達の農場で行われた「吊し上げの刑」
北朝鮮では、協同農場の余った土地を農民に貸し出し、賃料を取る行為が密かに行われている。国からは得られない運営資金を稼ぐためだが、あくまでも違法行為であるためしばしば摘発が行われる。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、穏城(オンソン)郡原料基地事業所の作業班長と朝鮮職業総同盟(職盟)の初級委員長が、国の農耕地を勝手に個人に賃貸し、土地代と小作料を取るなどの非社会主義的な行為をした容疑で、今月1日に公開思想闘争会議にかけられた。つまり、吊し上げにあった。
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事件の概要は次のようなものだ。
原料基地事業所の本来の役割は、郡内の工場で原料として使う作物を栽培、供給することだが、実際にはトウモロコシを植えて、朝鮮労働党穏城郡委員会の幹部やその家族に供給してきた。つまり、「上級国民」のための専用農場に化していたわけだ。
また、顔見知りの農民に土地を貸し与えて、秋の収穫後には賃料と小作料を取り、それを従業員への配給に回していた。とても従業員思いの国営企業だと言えるが、北朝鮮では違法行為だ。
朝鮮労働党中央委員会は、「原料基地造成事業を全民衆的な運動として展開し、地方産業工場の原料問題を解決する」との方針を示した。この原料基地事業所のやり方は黙認されてきたが、方針を受けて、党の方針に真っ向から逆らうものとして問題視された。
そこで、今までの違法行為は今後繰り返されてはならないという警告の意味で、見せしめとして公開思想闘争会議が行われたというのが情報筋の説明だ。しかし、これは北朝鮮で恒常的に現れている、責任を下になすりつける行為に他ならない。
「問題の根本は原料基地事業所の支配人、党書記、技士長らにあるが、実際の処罰は下級労働者が受けることになった」(情報筋)
処罰されたのは原料基地事業所の一般労働者で、吊し上げで散々批判された後、撤職と革命化処分が下された。つまり、クビになり奥地の生活環境の劣悪なところに流刑となったということだ。
この結果を知った従業員たちは、原料基地を牛耳って、郡内の主要幹部に見栄を張るためにトウモロコシなどの食料を提供し、私腹を肥やしてきた原料基地の幹部は何の責任も問われず、下っ端の労働者だけに責任をなすりつけたと激しい非難の声が上がった。
しかし、この話には裏がある。奥地に追放された2人だが、1〜2年で職場に復帰させるとの裏取引があったのではないかという噂が流れているとのことだ。罪をかぶる代償として、ほとぼりが冷める頃になったら戻ってきて、また元のようにやってもいいということかもしれないが、真相は依然闇の中だ。
何らかの方針、命令が下されれば、当初は厳しく対処し、しばらくすれば元通りというのは、北朝鮮でよく見られる現象だ。これは中央が下す方針、命令と現場の事情が乖離していることに他ならない。