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「カビが生えてる」「家畜のエサかよ」北朝鮮国民が憤る金正恩の食糧政策

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

中国のデイリーNK情報筋によると、北朝鮮は3月中旬から、中国の東北地方から大量のコメを取り寄せている。コメを満載した貨物列車が遼寧省丹東から北朝鮮に向かっているという。

中国の税関当局は、今年に入ってから北朝鮮に輸出される物品に対する通関検査を強化し、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁の禁輸品目はもちろんのこと、食糧の輸出もかなり厳しくなっている。

コメを輸出しようとして税関に止められた北朝鮮の貿易会社は、「制裁品目ではないコメなので、貨物列車に積ませてほしい」と何度も税関当局に要求することもあったという。

春を迎え食糧難がより一層深刻化したことを受け、税関当局は先月中旬から貨物列車でのコメの輸出を許可した。だが、このコメがひどい代物だ。

「中国では家畜の餌として使われるほど低質のコメだ。割れやすくカビが生えていたり、土などの異物が混じったりしていて、(一般の)中国の市場では扱われない最下級のコメだ」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

コメの国際指標となるタイ産白米100%グレードBの輸出価格は先月27日の時点で、1トンが615ドル(約9万3200円)だ。最も安いタイ産割れ米A1スーパーでも、1トン473ドル(約7万1700円)するが(いずれもタイ米輸出協会発表の数字)、今回北朝鮮が取り寄せたものは、わずか2300元(約4万8200円)だった。

情報筋はこのように見ている。

「北朝鮮の貿易代表は、ぜいたく品を買い求めるときは湯水のようにカネを使うのに、コメとなれば『カネがない、高いコメは買えない』という。庶民の食べるコメを重要だとは考えていないようだ」

北朝鮮の貿易業者は、特権層からの注文を受け、フェラガモ、グッチ、フェンディなど、高級ブランドの服やバッグなどを大量に取り寄せている。人気の価格帯は5000元(10万4800円)から6000元(約12万5700円)だ。

コメの配給量は一般労働者の場合、1日700グラムと定められているが、今回の輸入価格で換算すると1.61元(約33.7円)となる。1日に3105人から3726人がコメを得られるだけの資金を、ぜいたく品の爆買いに費やしているのだ。

ちなみに、中国の税関当局が北朝鮮への輸出への規制を強化しているのは、国際社会の視線を気にしてのことのようだ。丹東は、北朝鮮が見える観光地として人気で、貨物の荷積みの際に、一般人や労働者の目に触れてしまうことがあるからだ。それもあってか、北朝鮮から戻る貨物列車は積荷なしのことが多い。

そのせいで、観光客が相対的に少ない、ロシアとの国境に近い吉林省琿春からの輸出が増えているとのことだ。

「丹東では鋼鉄やセメントも北朝鮮に輸出できない。壁紙などの建築資材ばかり貨物列車に積んで輸出しているが、琿春では鋼鉄も問題なく輸出できて、カツラやつけまつげを積んで中国に戻ってこられる」(情報筋)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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