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金正恩の警察が必死で追う「ある10代少女」の行方

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 度を越したゼロコロナ政策に基づいた国境封鎖、貿易停止がもたらした北朝鮮の深刻な食糧難。一部ではかなりの餓死者を出していると言われ、北朝鮮各地にいるデイリーNKの内部情報筋はいずれも深刻な状況を伝えている。

 ゼロコロナ政策がもたらしたのは餓死だけではない。カネ欲しさ、食べ物欲しさと思われる犯罪が激増していることが伝えられている。首都・平壌では、10代の少女が行方不明となる事件が起きた。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 事件が起きたのは郊外の順安(スナン)区域。先月初め、10代の少女が行方不明になり、安全部(警察署)が捜査に乗り出し、誘拐事件だとみなして、被害者の自宅の電話に逆探知装置を設置するなど、ありとあらゆる手段を動員している。しかし、身代金を要求する電話は一向にかかってきていない。

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 情報筋は、生活に困った人々が見境なく犯罪に手を染めるようになっており、最近では子どもの誘拐事件も増加し、平壌でも起きていると伝えた。3月には市内西部で、7歳の子どもを誘拐し、身代金を奪い取ろうとした一味が安全部に逮捕されている。

 安全部が今回の事件を、単純な行方不明事件ではなく誘拐事件と見たのも、そういう背景があるためだろう。また地方ならともかく、首都の平壌でこのような犯罪が起きていることを、国も深刻な問題と捉えており、根絶のために取り締まり強化と厳罰化で臨んでいる。

 それにしても、平壌市安全部が刑事事件の捜査で逆探知装置を使っているというのは、少し驚きである。まず、北朝鮮でこの手の機器は、刑事事件よりは反体制的な動きを摘発するために使われてきたはずだ。そんなものが、市民の目の触れるところに持ち出されるという点が意外なのだ。

 もしかしたら、少女の親は相当な有力者か金持ちで、金正恩総書記が直々に早期解決を厳命したのかもしれない。

 北朝鮮では1990年代後半の食糧危機「苦難の行軍」のころにも、平壌の治安が極度に悪化し、市内では毎年1体の遺体が発見されているとの証言もある。体制の安定のため、そうした事態が繰り返されないよう、当局が気を使っている面もあるだろう。

 しかし根本的な原因は、食べものがないということにある。

「最近発生する犯罪のほとんどは、食べるものがないことが原因にある。国が食糧問題を解決するまでは、いくら取り締まりを強化しても厳罰化しても、意味がないだろう」(情報筋)

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 さて、事件について市民の間では、「(安全部の)動きを察知した誘拐犯は、捜査の手が緩められるのを待っているのだろう」と噂され、捕まれば死刑になるだろうとの話も交わされている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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