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「死のうが生きようが気にしない」金正恩体制に北朝鮮国民ら失望

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

 北朝鮮が連日行っているミサイル発射実験。日本のTwitterでは「北朝鮮大花火大会」などと揶揄する声が出ているが、北朝鮮国民の立場からすると、そんな余裕もないだろう。

 韓国のニュース専門チャンネルYTNは、今月2日と3日のミサイル発射費用を1億2000万ドル(約176億円)と推測し、北朝鮮が自国生産だけでは不足するコメを補うために、中国から輸入したものの2年分近い額に相当すると報じた。

 この報道が伝わったのかどうかは不明だが、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)では「1日7000万ドル(約102億円)を使った」という噂が流れ、人々を憤慨させていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 中国との国境に接する会寧(フェリョン)では、今月2日のミサイル発射で使った金額が7000万ドルに達するとの噂が急速に広がった。噂を耳にした市民は、驚きと憤りを隠せずにいる。

 これは、携帯電話を使って中国とやり取りしている人を通じて広がったものだ。市内で、食べ物が底をついた「絶糧世帯」が増える中、話を聞いた人は開いた口がしばらく塞がらず、舌打ちをしているという。

 情報筋はミサイル発射にどれほどの金額が使われたかという話が広がると共に、市民の非難が相次ぎ、「食糧難に対する対策も立てられずにいるのに、巨額のミサイルを空に飛ばすなんて話にもならない」と市民が怒っていると伝えた。

(参考記事:「北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

「われわれの生活が苦しいのは米国の奴らのせいだ、苦しい思いをしても頑張って打ち勝とうと宣伝しておきながら、われわれの血と汗で作られたミサイルをやたらめったら撃ちまくるなんて」(会寧市民)

「今の(当局の)やり方を見ると、われわれのような庶民は死のうが生きようが気にしないということに他ならない。国の本音を知ってなお、ここ(北朝鮮)で生きなければならないことに怒りしか感じない」(同)

 つまり、機会さえあれば、脱北して川向うの中国に行きたいと考えているということだ。

 この噂は道内最大都市の清津(チョンジン)にも伝わったようで、「(収穫期の)秋だというのに、人々が飢えている。それなのにそんなに多くのカネを空に飛ばすなんて」「それが事実ならば、人民のための政治を行うというのは宣伝に過ぎず、真っ赤な嘘ということを示している」などと市民が怒りをあらわにしている。

 現地の情報筋は「国の安全は武力が担保する」とミサイル開発にある程度理解を示しつつも、「生活の苦しい人々が1日に7000万ドルを空に飛ばしたことが真っ当なことではないのは当たり前、誰が喜ぶだろうか」と反発した。

 以前の核実験、ミサイル実験のとき、北朝鮮国営メディアは大騒ぎし、外信も喜ぶ平壌市民の様子を報じていた。しかし、当時から「民生を優先せよ」と反発が非常に大きかった。

 深刻な食糧難の中で、繰り返されるミサイル実験。その割には報道が控えめだが、下手に大騒ぎすると反発を買いかねないという判断があるのだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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