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北朝鮮、首都・平壌近郊でも腸チフス感染拡大

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮軍の兵士(デイリーNK)

 新型コロナウイルスに加え、「急性腸内性伝染病」の感染が広がっている北朝鮮の黄海南道(ファンヘナムド)。正確な病名は明らかにされていないが、腸チフス、コレラ、赤痢などの病気を指すものと思われている。

 北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が、自宅に備置していた医薬品を黄海南道などの患者に送ったことを、美談として大きく宣伝している。だが、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、「感染症で苦しんでいるのは、黄海南道だけではない」として、現地の感染状況を伝えている。

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 平安南道では、平原(ピョンウォン)、粛川(スクチョン)、文徳(ムンドク)、安州(アンジュ)など、大穀倉地帯「十二三千里平野」を中心とした地域で、腸チフスやコレラの患者が多く発生している。

 患者には発熱、食欲不振、徐脈、下痢、腰部のバラ疹などが症状として見られ、これらは腸チフスの典型的な症状だ。防疫当局は当初、新型コロナウイルスと診断していたが、後になって腸チフスやコレラと診断を変更した。

 治療には抗生剤が有効とされているが、医薬品価格の高騰、品薄で、薬局や市場では手に入らない。ワクチンも存在するが、入手は困難で、地域担当の医師は、衛生管理の徹底を呼びかけるにとどまっている。

 これらの感染症はいずれも汚染された水を通じて感染する。北朝鮮の地方では、下水道設備が整っておらず、共同水道や井戸を使用し、肥料として人糞を使っていることもあって、感染症が広がりやすい。

 当局は、平壌市内のタワマンの完成を大々的に宣伝しているが、そこから北にわずか50キロしか外れていない地域でも、基本的なインフラすら備えられていないのが、北朝鮮の極端な地域格差だ。

 一方、腸内性伝染病で苦しめられている黄海南道では、結核性リンパ節炎なる病気や、正体不明の「新型高熱病」まで流行していると伝えられている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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