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金正恩の「もう一人の叔父」問題行動で静かに処刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

 2013年12月、北朝鮮で金正恩総書記の叔父である張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長が処刑された事件は、世界に衝撃を与えた。

 この1年前に最高指導者となったばかりだった金正恩氏は、部下の中では実力ナンバー1と言われた張成沢氏が、後見人のひとりとなっていたからだ。

 張成沢氏は金正恩氏の叔母である金慶喜(キム・ギョンヒ)元党書記の夫だから、血縁ではない。しかし、ごく近い関係の身内を処刑した例は、やはり残忍な指導者だった金日成主席や金正日総書記の時代にも見られなかった――と思ったら、違っていた可能性が出てきた。

 北朝鮮の内部情報入手で定評となる脱北者出身の東亜日報記者、チュ・ソンハ氏はYouTubeチャンネルとブログで、金正日氏が自らの腹違いの弟を処刑していたとの情報を公開したのだ。

 金正恩氏も、異母兄である金正男氏を暗殺しているが、2人の間に面識はなかったと思われる。一方、金正日氏は身近にいた異母弟を処刑したのだという。

 韓国紙・朝鮮日報は2015年7月2日、金日成氏の隠し子とされる男性が、北朝鮮外務省の日本担当部署に勤務していると報じた。

 男性の名前はキム・ヒョン氏で年齢は当時44才。金日成氏のマッサージ師だった女性との間に生まれたとされていた。つまり、金正恩氏にとっては叔父になるわけだ。

 北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋は、朝鮮日報に「キム・ヒョン氏は、北朝鮮外務省の日本担当部署で勤務していると聞いた。日本で学校に通っていたため日本語を流ちょうに話せるそうだ」などと明らかにしている。

 キム・ヒョン氏の存在は、金正日氏の妻だった成恵リム(ソン・ヘリム)氏の甥にあたる李韓永(イ・ハンヨン)氏が、韓国に亡命した後に明らかにしていた。

 ただ、「日本で学校に通っていた」という話は、どうにも現実味がなかった。留学したということなのか、あるいは朝鮮総連にでも預けられていたとでもいうことなのか。いずれにしても、なかなか考えにくいシチュエーションだ。

 一方、チュ・ソンハ氏によれば、キム・ヒョン氏の存在は徹底的に隠され、彼は学校にすら通わせてもらえなかったという。そのかわり贅沢三昧を許され、幹部専用の高級ベンツを乗り回しては、女性を招待所に連れ込む放蕩生活を送っていたとされる。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 そうした存在が厄介に思われたのか、あるいは後継者を決める上での邪魔者と判断したのか、金正日氏は2007年に、キム・ヒョン氏を「静かに処刑」したのだという。

 朝鮮日報の報道とはかけ離れた話だが、いずれが真実なのか、あるはまったく別の事実があるのか――それが明らかになる日は、果たして来るのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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