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「高熱の患者をそのまま火葬」感染爆発の北朝鮮で深まる闇

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 儒教の孝経に「身体髪膚、之を父母に受く。敢て毀傷せざるは、孝の始めなり」という一節がある。つまり体も髪も皮膚も親から受け継いだものなので、大切にすることが親孝行だという意味だ。

 朝鮮王朝中期以降に儒教の影響が非常に強くなり、近代に入ってキリスト教の影響も加わった朝鮮半島では、火葬に対する拒否感が非常に強くなった。

 韓国・保健福祉省の外郭団体である韓国葬礼文化振興院の統計によると、1994年の火葬率はわずか20.5%だった。ところが、昨年12月には92.0%に達している。この2〜30年で、韓国国民の火葬に対する考え方がガラッと変わったということだ。

 北朝鮮では、1998年の最高人民会議常設会議決定第115号として、火葬法が制定された。これは火葬を奨励するものだが、同時に土葬も認めており、全国的には7〜8割が土葬と言われている。宗教に対する排撃により、葬儀から宗教的要素は排除された一方で、埋葬方法に関しては古くからの考え方が根強く残っていることを示す。

 その火葬率だが、コロナ禍において強制的に上げられているかもしれない。

 平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、高熱など新型コロナウイルスの症状を見せて死亡した患者について、当局は家族の手による埋葬を許さず、強制的に火葬にしていると伝えた。

(参考記事:「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍を襲った大量死の衝撃

 家族の誰かが亡くなっても、死を悼む時間すら与えられず、防疫関係の部署の人間が押しかけてきて、家族の同意のないままに、問答無用で遺体を回収してしまう。あまりもの一方的なやり方に、「家族なのになぜ自分たちの思うようにできないのか」とケンカになることもあるそうだ。

 これに対して当局は、家族が遺体を勝手に埋葬すれば厳罰に処すると警告している。

 なお、情報筋の住む地域では子ども、老人、貧困層で亡くなる人が多いが、人々の恐怖心を誘発するとして、死者数は絶対に公表されないという。

 一方、コロナ罹患後に後遺症に苦しめられる人も多いと情報筋は伝えている。

「昼間は熱が下がるが、午後5時ごろになると37度を超えて寒気がしてつらくなり、記憶力がなくなると訴えている」(情報筋)

 世界保健機関(WHO)によると、コロナ罹患後に回復した人のうち、10%から20%に疲労、呼吸困難、不安、認知能力の低下など様々な後遺症が現れる。

 また、複数回感染する人もいるようで、情報筋は、新義州(シニジュ)で4月末から今まで3回かかって治ったという人がいると述べている。ただし、正確な検査を経てコロナ感染を確定させるケースは少ないことから、別の病気である可能性もある。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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