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赤ん坊を抱え売春する女性たち…北朝鮮「コロナ鎖国」の実態

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
国境地帯の北朝鮮軍兵士たち(デイリーNK)

 北朝鮮と中国を結ぶ貨物列車の運行が再開されてから2ヶ月が経った。生活物資の多くを中国に頼っている北朝鮮の人々にとって、貨物列車の運行再開は希望の光だが、その光がすべての人を照らす日はまだまだ遠い。

 人々の生活苦は解消せず、食い詰めた女性たちは街頭に立つようになった。

 咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、咸興(ハムン)駅のそばに立って売淫行為(売春)の客引きをしていた女性2人が、安全員(警察官)に連行されたと伝えた。いずれも20代後半の女性で、生後5〜9ヶ月の赤ん坊を抱えていた。

 うち一人のチェさんは2020年11月に結婚、餅を売って一家の生計を立てていたが、昨年11月に赤ん坊を出産した後は体の調子が悪くなり、商売ができなくなってしまった。その日の食べ物すらなくなり「絶糧世帯」に陥った彼女は、友人を誘って路上に立ち、売春を行うようになった。

「どれほど苦しかったら出産してまもない女性が売春をするのか」と同情を示した情報筋は、国が彼女らを取り締まる前に生存権を保証すべきだと批判した。

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 北朝鮮の刑法249条「売淫罪」は「売淫行為を行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処し、罪状の重い者には5年以下の労働教化刑に処す」と定めている。また、行政罰を定めた行政処罰法220条「売淫行為」は「売淫行為を行ったり、それを助長、仲介、場所を提供した者には罰金または3ヶ月以下の労働教養処分とする」としている。

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 チェさんら2人に対しては、赤ん坊がいることが酌量され、労働鍛錬刑(懲役刑)3ヶ月の軽い判決が下された。だが、ただでさえ食べるものが得られない残された家族が、どうやって3ヶ月を耐え抜くのだろうか。

 北朝鮮で売春が広がったのは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころからだ。その後、経済状態が好転したことと、当局の取り締まりが強化されたことで、かなり減ってはいたものの、一昨年1月からのコロナ鎖国で再び増加に転じたとされる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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