少なくない脱北者の証言によれば、北朝鮮ではそもそも性暴力の概念が希薄で、セクハラやストーカー行為に対応する法律も存在しない。また、性暴力防止のための教育も行われておらず、被害に遭う女性が後を絶たない。

中でも、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部では、男性の上官が優越的地位を利用して、女性の部下に対して性暴力を加える事件が多発していると言われているが、「やられたのは女性の落ち度」だとする風潮が未だに根強く、表沙汰になるのは氷山の一角だ。。

そして、また一人の女性兵士が性暴力の餌食となった。事件が起きたのは、中国国境に近い平安北道の塩州(ヨムジュ)に駐屯する第8軍団でのことだ。

平安北道の朝鮮人民軍内部の情報筋によると、第8軍団の指揮部直属の電信電話所(大隊)で青年指導員を務めるリ上尉(大尉と中尉の間の階級)は2年前、交換手として配属された18歳の女性兵士、キム中級兵士(上等兵)に目をつけた。

そして、共に外出したり、あれこれと用事を頼んだりして、関係を築いた。そんなある日、こんな甘い言葉をかけた。

「軍官学校(士官学校)に行くにも、(朝鮮労働党に)入党するにも、社会(民間)の大学に行くにも、青年部の審査を経なければならないが、自分によく接すればそれくらいのことは、うまく処理してやれる」

そして、キム中級兵士に性関係を要求。それから2年間、彼女はリ上尉から性暴力を受け続けたという。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

リ上尉はさらに、妊娠してしまったキム中級兵士を連れ出し、町中の医師の家を訪れ、妊娠中絶手術を受けさせた。ちなみに軍服務中の妊娠は不名誉除隊の対象となる。また、中絶手術は法で禁じられているが、バイトとして施術を行う医師はいくらでもいる。

これが彼女の心身に大きなダメージを与え、勤務に支障が出るほど体調が悪化。精神的ショックも加わわって食事が取れなくなり、栄養失調にかかってしまった。そして、「自宅栄養失調保養者」と認定され、両江道(リャンガンド)普天(ポチョン)の実家に一時帰宅させられてしまった。

通常、栄養失調にかかった者は、まず軍団の保養所で治療を受ける。それなのに、彼女だけいきなり一時帰宅させられてしまったこと、リ上尉が実家まで連れて帰ったことに軍団の保衛指導員(秘密警察)が疑問を抱き、彼女の周囲の女性兵士を対象に聞き込み調査を始めた。

それからしばらく経った今月2日。部隊に復帰した彼女に、さらなる性暴力を加えようと鬼畜ぶりを見せたリ上尉だが、ちょうどその時、保衛指導員が部屋の鍵を壊してオフィスに踏み込み、現場を押さえた。

保衛指導員は事件の一部始終の上部に報告したが、軍団の政治部から返ってきた答えは、セカンドレイプ(二次加害)そのものだった。

「男もそういう年頃になれば、失敗をやらかすこともある」

「電信電話所は(男女)混成大隊だから、こういうことが起きることもある」

そして、被害者であるキム中級兵士に対して鑑定除隊(病気による除隊)命令を下したのだ。さらに「軍人だから耐えろ」「生活除隊(不名誉除隊)ではなく鑑定除隊で処理されたことだけでもありがたいと思え」という暴言を吐いたという。

しかし、突然除隊になったら地元で噂が広がることは間違いなく、以前と同じように生きていくことは非常に困難になる。

一方、加害者のリ上尉だが、比較的軽い降格処分と人事処分を受けたにとどまった。今回の事件について、軍団内の一部の軍官が「女性兵士が服従精神を発揮したのだから高く買うべきだ」「1対1で強姦はありえない」「女が同調したのだから、ああいうことがおきたのではないか」というとんでもない暴言を吐き、女性兵士たちは怒り心頭だとのことだ。

情報筋によれば、「同僚の女性兵士は、彼女は一生まともに暮らせないだろう、男性軍官にやられて除隊させられ不名誉を抱かされるのが、わが国(北朝鮮)の女性兵士の現実だと嘆いている」という。