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「処刑が増えている」安保理も懸念、緊迫の度を増す北朝鮮国内

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

国連安全保障理事会は11日、北朝鮮の人権状況について非公開会合で討議。参加国に日本を加えた8カ国で、北朝鮮の自国民に対する人権侵害を非難する声明を発表した。

共同通信によれば、声明は北朝鮮が世界的な新型コロナウイルス流行を「自国民への締め付けを強めるために利用している」と非難。新型コロナに関し北朝鮮で処刑が増加していることに憂慮を表明したという。

本欄でも繰り返し指摘してきたが、北朝鮮国内からは防疫対策の違反者や、治安を乱した者が処刑されたとする情報が少なからず漏れ伝わっている。

(参考記事:金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

処刑増加に対する非難は当然のものだが、北朝鮮は「重大な政治的挑発」と受け止め、強く反発する可能性がある。何しろ金正恩党委員長は10月10日に朝鮮労働党創建75周年を記念して行われた閲兵式(軍事パレード)での演説で、自国の防疫対策を誇りながら、涙まで見せていたのだから。

しかし一方で、新型コロナウイルスを巡る北朝鮮の状況が、緊迫の度合いを増していることをうかがわせる情報もある。

北朝鮮メディアは中国以外では新型コロナウイルスの感染拡大が始まっていなかった1月の段階から、新型コロナウイルス感染症への対策は「国家存亡に関わる重大な政治的問題」であると訴えてきた。

同国の防疫・医療システムは極めて脆弱であり、新型コロナウイルスの感染が広がって社会が混乱するようなことになれば、体制を土台から揺るがす事態につながりかねない。だからこそ、金正恩党委員長は極端なまでの防疫対策を発動して、自ら指揮を取ってきた。

その後、北朝鮮は国内での感染者発生は1件もないと主張し続け、成果を誇っている。しかし実態は、大きく異なっている可能性が高い。北朝鮮国内からは、すでに数千人が新型コロナと似た症状を見せた後で死亡したとの話も漏れ伝わる。

そしてここへ来て、北朝鮮メディアの論調にも、今年前半と同じような緊張がうかがえるようになってきている。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は9日、新型コロナウイルスに対する防疫活動の強化を呼びかける署名入りの論説を掲載した。

論説は、「国境と領空、領海をいっそう鉄桶のごとく封鎖、遮断するのは、国家的な非常防疫活動の優先的要求である」としながら、次のように指摘した。

「防疫陣地に破裂の穴が生じれば、これまでの全ての苦労と努力が一時に水泡に帰し、国家の安全と人民の安泰を危険極まりない状態に陥れるような取り返しのつかない結果を招きかねない」

また、新型コロナウイルスは冬場にさらに流行が広がるのはないかと懸念されていることから、「冬季はわれわれにとって一つの大きな挑戦であり、これは非常防疫活動の緊張度をより高めることを求めている」と警戒を呼びかけた。

そのうえで、「われわれは、大流行伝染病が医科学技術によって完全無欠に統制、管理される時まで、瞬間の放心や油断も許さず、国家的な防疫指針を徹底的に履行し、厳格に順守しなければならない」と繰り返し強調した。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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