北朝鮮国民「脱北者ビラ」に興味津々…金与正氏の強硬策が裏目

金与正氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

韓国の脱北者団体が金正恩体制を非難するビラを北へ向けて飛ばし、韓国政府がこれを容認してきたことに対し、北朝鮮当局は南北共同連絡事務所を爆破するなど強硬な姿勢を示している。

しかしそのせいで、韓国からの「対北ビラ」について何も知らなかった北朝鮮国民までもが「いったい何が書いてあるんだ!?」と興味津々になっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

きっかけは今月、朝鮮労働党機関紙の労働新聞にデカデカと掲載された、金正恩党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長の談話だった。韓国政府がビラ散布を規制する措置を取らなければ、「その代償を南朝鮮当局がどっさり払うしかない」とした談話に呼応する形で、北朝鮮は韓国政府や脱北者を非難する群衆集会を連日のように開いてきた。

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北朝鮮の国境都市・新義州(シニジュ)に親戚がいるという中国・丹東の市民はRFAに対し、「新義州をはじめ、北朝鮮北部に住む人々の大部分は、そうしたビラを見たこともないし、韓国から飛ばされていることも知らなかった。しかし新聞で金与正氏の談話を読み、平壌で行われた集会の様子をテレビで見ながら『あれほどの大騒ぎをするとは、ビラにはいったいどんなことが書かれているのか』と気になって仕方がない様子だ」と話している。

こうした例は、実は過去にもあった。2016年1月、韓国軍が北朝鮮の核実験への対抗措置として、それまで中止していた対北拡声器放送を再開した際のことだ。

当時、北朝鮮国内では人民班の会議(町内会の会合)で「南(韓国)の放送に騙されてはいけない」との思想教育が行われた。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、会議では「韓国は放送を使って反北朝鮮宣伝を行っている。朴槿恵一味の反北朝鮮圧殺策動に騙されて、祖国と民族を裏切り脱北してはならない」などの内容が伝えられたという。

これに対して住民らは「南が放送をしているとは知らなかったのに、ご丁寧にも教えてくれた」と興味津々で、会議が終わっても帰宅せず「どんな番組をやっているのか、中身も教えてくれたいいのに」と井戸端会議に花が咲いたという。

脱北者団体が飛ばしたビラには、北朝鮮の一般国民がとうてい知ることの許されない、金一族の「暗部」が書かれている。それを知り、口外すれば、間違いなく死刑にされるような危険な内容だ。ただ、当局はそうした事実にすら触れることもできない。

かくして、北朝鮮国民の胸中に漠然と芽生えた「ビラに書かれた秘密」への興味は、いつしか独裁者の権威を突き崩す爆弾に変身する可能性をはらむわけだ。そもそも、国民に知られてマズい秘密が多いほど、国家指導者は多くの弱点を抱えることになるモノなのだろう。