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14歳少年、借金取りの男を殺害…新型コロナで荒む北朝鮮

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
朝鮮人民軍の兵士(デイリーNK)

国際社会の制裁、度重なる自然災害に加え、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国境封鎖で八方塞がりの北朝鮮経済。その影響をまともに受けているのは貧しい人たちだ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、苦境に追い込まれた農村の少年が借金取りを殺害するという衝撃的な事件を伝えた。

14歳の少年は、家族とともに道内の价川(ケチョン)の農場に住んでいた。昨年夏の端境期に食べるものが底をついたため、農場の倉庫長からコメ50キロを借りた。秋の収穫後に利子を付けて返す約束だった。

北朝鮮の刑法は、カネを貸して利子を取ることを禁止しているが、実際は当たり前のように行われている。また、取り締まりを避けるために現金ではなく穀物を貸し借りする例も多い。

秋になって農場から穀物が分配されたが、とても借金を返せるほどの量ではなかった。日照りと台風で凶作となったせいだ。母親は倉庫長に事情を説明したが、口論になった。倉庫長は「返せないくせに食べるだけ食べやがって」などと暴言を吐き、髪を乱暴に掴んで暴行した。

そこにちょうど、学校から帰宅した少年がその場面に出くわしてしまった。激憤した少年は、倉庫長を殺害するに至った。北朝鮮で少年犯罪は、どのように扱われるのか。

(参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

北朝鮮の刑法268条は、被害者の暴行または侮辱により偶発的に人を殺害した場合は、3年以下の労働教化刑に処すと定めており、少年にはこれが適用される可能性がある。しかし、被害者の暴行の対象が少年ではなかったことから、267条の故意的軽殺人罪が適用され、3年以上10年以下の労働教化刑に処される可能性もある。

昨年から食糧事情がよくないのに加えて、新型コロナウイルスのせいで商売もうまくいかず皆が苦しい状況で起きた今回の事件に、周りの人々は心が重いとの反応を示しているという。

北朝鮮では、返済を迫られた債務者が借金取りを殺害する事件は、毎年のように起きている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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