「忠誠心でメシが食えるか」生活苦にあえぐ北朝鮮の官僚たち
今年6月、トランプ米大統領と金正恩党委員長の米朝首脳会談が板門店で電撃的に行われた。しかし、米朝間の対話はその後も膠着状態から抜け出せずにいる。国際社会の制裁は緩和されず、北朝鮮国内からは「生活が苦しい」という声が次から次へと聞こえてくる。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、北朝鮮の体制を支えてきた地方政府の幹部の間からも不満の声が上がっている現状を伝えた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)市のある幹部によると、中央は現場の事情を全く考えない指示を乱発しているという。
その中の一つが対象建設動員と社会支援事業だ。対象建設とは、国が重点的に建設を進めているプロジェクトのことを指し、三池淵(サムジヨン)、元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区、陽徳(ヤンドク)温泉観光地区などがそれに当たる。それらに対する労働力の動員、働く人への食糧や物資の供出を国から急かされているということだ。
「国家経済発展5カ年戦略の失敗で、暮らしが良くなるという希望はおろか、最低限の生計すら保証できなくなっている」(幹部)
朝鮮労働党第7回大会で提示されたこの戦略だが、失敗しているというのが現場レベルでの見方のようだ。
中央の言うことは「幹部は枠にとらわれず愛国忠誠の精神で生産戦闘の先頭に建つべきだ」というものだが、要求ばかり突きつけて見返りは何もない状態だ。しかし、幹部とて人の子。自分も家族も食べるものがなければ生きていけないが、国からの配給は先細るばかりだ。
そんな状況で国が突きつけてきたのは、「外貨稼ぎ計画案の提出」だ。少しでも外貨稼ぎに役に立つアイテムを探し出し、どれほどの外貨を稼げるか報告しろということだ。
国は、社会のお手本になるべきだとして、幹部らに対してはちょっとした商売でも禁止しているが、許認可権を持たずワイロを受け取る立場にない幹部は、現金収入が得られず、貧困層に転落しかねない状況だ。同じ立場の幹部が集まれば、「忠誠心でメシが食えるものか」とぼやいているという。中には「もう幹部なんてやめて中国に行って行商でもやる」との反応を示す幹部もいるとのことだ。
生活が苦しいのは幹部だけではない。ワイロを受け取る機会を持つ人々ですら、生活苦を訴えている。
保安員(警察官)、保衛員(秘密警察)など司法関係者は、住民統制を末端で担うという重要な役割から、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のときですら、彼らに対する配給は保証されていた。
ところが、最近は配給が途絶え途絶えになっている。
「最近、北朝鮮に行けば権力を持っている司法関係者ですらいかにしてカネを稼ぐかということばかりを考えている様子を見かける。付き合いの長いある司法関係者から、中国で商売するために取引先を紹介してくれないかと頼まれたのは意外だった。上からの命令は多いのに、暮らし向きは日々ひどくなるばかりで、もう辞めてカネ儲けに走るしかなくなっている」(中国吉林省に住む朝鮮族)
金正恩氏は、今年の新年の辞で不正腐敗行為の根絶について言及した。それ以降、ワイロを含めた不正行為に対する取り締まりが強化されているが、そのせいでワイロが受け取れずに生活が苦しくなってしまったというのだ。
ただ、泣く子も黙る保安員や保衛員も、辞めてしまえばただの人だ。在職中にひどいことをしていたとしたら、どんな報復をされるかわからない。