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女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮が国際社会の非難に対し最も強く反発するのは、人権問題を巡ってのものだ。北朝鮮外務省の報道官が6月26日に発表した談話で、「最近だけでも、米国はあらゆる虚偽とねつ造で一貫した『人身売買報告書』と『国際宗教自由報告書』でわが国家を悪らつに謗った」と語気を強めた。

北朝鮮が人権問題で反発するのは、それが最大の弱点だからだ。核問題はむしろ、国際社会の目を人権問題から逸らせる効果を発揮している。30日に板門店(パンムンジョム)で行われた実質的な米朝首脳会談の報道でも、人権問題に言及したメディアはほとんどなかった。しかしいくら非核化が進んでも、金正恩党委員長が残忍な独裁者であり、国際社会に受け入れがたい存在である事実に変わりはない。

残忍な独裁者・金正恩(1)

公開処刑は、その行為自体が人権侵害であると指摘されているが、北朝鮮ではそれが示威的に、さらには最高指導者の「個人的理由」で行われているところに重大な問題がある。

金正恩氏の父である金正日総書記は、自らの女性スキャンダルが金日成主席(正恩氏の祖父)にバレることを恐れ、愛人だった有名女優の禹仁姫(ウ・イニ)を残忍な方法で公開処刑にしたとされる。しかも金正日氏は、彼女の同僚である芸能人らにその様子を見ることを強制し、恐怖による「口封じ」を行ったのだ。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

金正恩氏もまた、これと似たような行為を働いた。

金正恩氏は「親友」である元NBAプレーヤー、デニス・ロッドマンが北朝鮮を訪れた際、名門女学院の学生たちを呼び出して、乱痴気騒ぎにつき合わせたと言われる。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

しかし父とは異なり、金正恩氏を巡っては、特定の女性とのスキャンダルは聞こえてこない。彼が残忍な公開処刑に走った「個人的理由」とは、李雪主(リ・ソルチュ)夫人の結婚前の「元カレ」写真を巡るものだった。

脱北者でもある東亜日報のチュ・ソンハ記者が解説しているところによれば、李雪主氏が金正恩氏のパートナーとして選ばれた際、彼女が所属していた銀河水(ウナス)管弦楽団の同僚や友人ら数人が、ソルチュ氏に「元カレ」がいたことを示す「証拠写真」を回し見した。これが、北朝鮮当局の知るところとなってしまった。

当局は、写真の持ち主は誰で、回し見したのが誰であるかを執拗に調べ、突き止めた。そうして銀河水管弦楽団と旺載山(ワンジェサン)芸術団のメンバーら9人の名前が挙がり、2013年8月、姜健総合軍官学校の射撃場で銃殺されたという。

当局はその様子を、射撃場に集めた芸術関係者数千人に見せつけた。前列で見ることを強要された女性歌手らの中に、失禁しなかった者はいなかったという。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

これらの情報がどこまで事実であるかは、検証が必要ではある。しかし少なくとも、禹仁姫や芸術団メンバーらが公開処刑されたとの情報には相当程度の信ぴょう性がある。果たして、これらの情報が事実であると裏付けられたとき、各国のメディアは、現在と同じような視線を金正恩氏に向けることができるだろうか。(つづく)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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