金正恩が血眼で追う「あるエリート学生」の悲惨な運命

金正恩氏(朝鮮中央通信)

警察庁の統計によると、国内の年間の行方不明者数は2016年も2017年も8万4850人となっている。捜索願が出されていない人も含めると、その数はさらに多いだろう。

家族や隣人の前から忽然と姿を消す行方不明者は、北朝鮮にも存在する。しかし、他の国と違う点は、行方不明者が政治的に「危険な存在」として扱われる点だ。北朝鮮当局は、最高指導者の身辺警護にきわめて神経質になっている。

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実際、過去には最高指導者の身近で、単なる事故とは思えないハプニングも起きている。そのため行方不明者が発生すると、体制を攻撃するために「潜伏」した可能性などが考慮されるわけだ。

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両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると先月下旬、道内の金亨稷(キムヒョンジク)、金正淑(キムジョンスク)、三水(サムス)など中国との国境に面した各郡の人民班(町内会)に顔写真付きの尋ね人のポスターが貼られた。ただ、その後に開かれた人民班の会議で伝えられた内容は、「尋ね人」と言うにはおどろおどろしいものだった。

人民班の会議では地域担当の保安員(警察官)が、行方不明になった2人の個人情報を説明した。一人は平壌の名門、金策(キムチェク)総合大学(旧称金策工業大学)に通う19歳のアン・ハクソン。もうひとりの経歴も似たものだったが、情報筋は正確に記憶していないと述べた。

「国に対して罪を犯して逃げた者たちだ。渡江(脱北)する可能性が高いので行方を追っている。この者たちを見かけたら必ず通報しなければならない」(保安員)

同時に、「二人と似た者がやって来て泊めて欲しいと言われても、騙されないように。家に入れれば重い罰を受ける。見かけたらすぐに通報せよ」と強い口調で警告した。

ただ、二人がどんな罪を犯したのかについての話はなかった。近隣住民は「お上が目をつけている行方不明の案件だけあって、尋常ではない」「平壌の名門大学の学生なら、政治犯の可能性が高い」などとささやきあっているという。

実際、1988年の夏には平壌で、この国の最高学府・金日成総合大学の学生たちによる「反体制事件」が発生。一部は逃亡を試みたものの、結局は逮捕され悲惨な運命を辿った。

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今回の若者2人も、同じような最期を迎える可能性は小さくない。

両江道出身で2010年に脱北したキム・チョル(仮名)さんも「追跡対象となる行方不明者は一般の犯罪者ではなく政治犯の可能性が高い」とし、実際にキムさんが北朝鮮にいたころに同様の「尋ね人」があったが、ほとんどが政治的に問題があった人々だったと証言した。

北朝鮮は、選挙の前になると住民登録の再調査を行う。住民が登録した場所に住んでいるのかを確認するものだが、行方不明者を探し出す意味合いがある。

もし、行方不明者の家族となれば、当局の監視のもとに置かれるなど様々な不利益が生じる。それを避けるために、商売などで遠隔地に出かけている人も、調査の前に住民登録地に戻ろうとする。選挙で投票に行かないことも、同様の意味で危険な行為だ。

実際に家族の誰かが脱北してしまった場合、残された家族はその人の死亡届を出して死亡したことにする。政治的な面倒に巻き込まれることを防ぐことに加えて、何かにつけて脱北者家族からカネをせびり取ろうとする保安員や保衛員(秘密警察)を避けるためでもある。