米朝決裂で宙に浮いた金正恩氏の「とっておきプロジェクト」

中朝国境地域の軍部隊を訪れた金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮が経済発展、貿易振興のために中国との国境に面した地域に、国際市場を開設しようとしたが、計画が中断していると、現地の情報筋が伝えてきた。

その現場となったのは、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)。鉄鉱石を産出する鉱山を擁し、北朝鮮でもかなり裕福な都市として知られていた。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、中央党(朝鮮労働党中央委員会)はこの茂山に国際市場を開設する計画を立てた。計画の詳細は不明だが、おそらく中国人観光客に特産品を販売するためのものだろう。

敷地は、国境を流れる鴨緑江沿いにあり、元々は民家が立ち並んでいたが、2016年の水害で流され、更地になっていた。

(参考記事:村全体が消滅…北朝鮮・水害被災地の衛星写真

中央党の幹部が何度も視察に訪れ、今年1月には朴奉珠(パク・ポンジュ)総理(当時。現朝鮮労働党副委員長)も現地を訪問。対岸の中国吉林省延辺朝鮮族自治州和龍市政府の幹部と共に視察を行った上で、計画が立案された。力の入れ方からして、金正恩党委員長が強い関心を寄せていた可能性が高い。

現在、国連安全保障理事会の制裁決議で八方塞がりの北朝鮮経済だが、米朝首脳会談が成功した暁には、制裁が緩和され、交流が活発になり、国際社会からの支援物資も入ってくるだろうと目論んで、市場の建設計画をぶち上げたというわけだ。

その思惑は、辺境経済合作区を設立し、製造業を誘致、北朝鮮労働者を呼び寄せて生産を行おうとしたが、制裁で当てが外れた中国の和龍市とて同じだろう。また、現地の商人の間でも、市場で有利な区画を得るための、担当幹部へのワイロ攻勢が始まっていた。

それぞれの期待が膨らむ中、今年2月に工事は始まった。ところが、整地作業が終わったところに飛び込んできたのは、ベトナムの首都ハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わったという悲報だ。工事は中断、3ヶ月以上が経っても雨ざらしのままだ。

茂山では「朴総理が来るほどだから相当な規模の市場になるだろう」との噂になり、期待が募っていたが、工事の中断で失望が広がっている。

「経済封鎖(制裁)で茂山鉱山の操業が中断に追い込まれ、鉱山に頼って暮らしてきた市民のダメージが大きかった。新しい市場の建設事業に期待が大きかったが、今では失望が大きい」(情報筋)

制裁で輸出先を失った茂山鉱山は操業ができなくなり、従業員への給料支払いも食糧配給もできなくなった。従業員らは次々にヤマを去っているが、中には子どもを置き去りにする事例もあるほどの困窮ぶりだ。

(参考記事:北朝鮮有数の鉱山が操業中断、路頭に迷う子供たち

期待を裏切られた茂山市民の怒りは、中国に対しても向き始めた。

国の最高幹部である朴総理が、一地方政府の幹部と共に視察する様子を見かけた人々が、「中国は北朝鮮をどれほど冷遇しているのか」と怒っているという。総理が地方政府の職員と共に視察するなど、外交儀礼上ありえないということだ。一方で、「わが国はそれほど腹をすかせているのか」という嘆きの声も上がっている。

宙に浮いた形の国際市場だが、もしオープンにこぎつけていたとしたらどうなっていたのだろうか。

北朝鮮は昨年7月、咸鏡北道羅先(ラソン)の元汀里(ウォンジョンリ)税関のそばに中国人を対象にした「国際市場」を開設している。しかし、売れ行きは芳しくないようだ。国連安全保障理事会の制裁決議は、北朝鮮の主力商品の海産物を対象としているため、買っても中国に持ち帰れないためだ。

北朝鮮の新義州(シニジュ)と国境の川を挟んで向かい合う中国・遼寧省の丹東でも、2016年に国境付近に住む両国の国民が品物を売り買いする中朝辺民互市貿易区がオープンしたものの、開店休業状態だ。

(参考記事:北朝鮮の「無理難題」で宙に浮く中朝経済プロジェクト

羅先と向かい合う中国の琿春は、近年、高速道路、高速鉄道が開通するなど交通インフラが整い、観光客も多く訪れる。丹東に至っては中朝貿易の7割が通過すると言われるほど、確固たる地位を築いている。

一方、茂山の向かいの和龍市南坪鎮は人口希薄で、街の中心まで60キロ、延辺朝鮮族自治州の州都の延吉まで130キロ、大消費地の長春までは500キロ以上離れているなど、地の利がいいとは言い難い。さらに、内陸にあるため、中国の消費者が求める北朝鮮産の海産物も望めない。

完成したとしても、巨大なハコモノができるだけのプロジェクトに終わった可能性が高いだろう。