Yahoo!ニュース

国連制裁が禁じた北朝鮮の派遣労働者、ロシアでむしろ増加か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏とプーチン氏(朝鮮中央通信)

国連加盟国に自国内の北朝鮮労働者を今年末までに帰国させることを義務付けた、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議2375号。その期限が迫る中、中国政府は北朝鮮から派遣されている労働者を6月末までに帰国させるよう企業に求めていると、東京新聞が4月23日付で報じた。

一方、ロシアではむしろ北朝鮮労働者が増えていると、現地のデイリーNK情報筋が伝えている。

極東のウラジオストク、ハバロフスクなどでは、最近になって北朝鮮労働者の数が増えており、特に女性労働者が目立つという。男性の場合は建設現場に派遣されるが、女性はアパレル工場や水産物加工工場に派遣される。

また、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)も、ロシア国内にある北朝鮮レストランで、学生ビザで滞在しながら働く北朝鮮女性が増えていると報じている。

世界各国の北朝鮮レストランは、アイドル並みの美貌を供えたウェイトレスらを看板に、少なくない外貨を稼ぎだしてきた。しかし上述した制裁により、国連加盟国は北朝鮮労働者に就労ビザを出すことを禁じられた。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

その規制をくぐり抜けるべく考え出されたのが、美人女子大生らによる「バイト作戦」というわけだ。

中国の情報筋も、北朝鮮労働者が最近、北朝鮮の新義州(シニジュ)から遼寧省の丹東を経て、ロシアのモスクワに移動する様子が捉えられたと伝えた。中国当局は3月から北朝鮮労働者を順次帰国させており、北朝鮮当局が新たな派遣先としてロシアに目を向けた可能性がある。

ただ、この情報筋はモスクワに行くのになぜ丹東を経由するかわからないと述べている。通常、北朝鮮からロシアに向かうには、平壌を出発し、東海岸を経てロシア極東に入る直通列車を利用する。ただ、モスクワに向かった労働者はもともと丹東にいた人々で、荷物の整理などの理由で一時的に丹東に戻った可能性も考えられる。

ちなみに丹東から高速鉄道で1時間半のところにある瀋陽から、北京発モスクワ行きの列車に乗車できる。

北朝鮮労働者の増加は、北朝鮮当局が様々な手段を講じて法の網をかいくぐり労働者を送り込もうとしているためと思われる。中国の情報筋は、北朝鮮当局が労働者を学生や技術者の身分で送り込んでいると述べたが、ロシアにも同様の方法で送り込んでいるのは前述したとおりだ。

(参考記事:【写真】金正恩氏の新たな商売「女子大生派遣ビジネス」の現場

また先月の朝露首脳会談では、金正恩党委員長がプーチン大統領に対し、労働者のビザ延長問題など、困窮の度合いを増す北朝鮮経済の救済を求めた可能性がある。

「北朝鮮はロシアに経済協力、支援を拡大し、対北朝鮮制裁を緩和する方法を望んでいるだろう。ロシアも北朝鮮の核問題を米露関係のカードとして利用し、朝鮮半島への影響力を増そうとする政治的意図がある」(韓国統一研究院のオ・ギョンソプ研究委員)

先日、ロシア下院代表団の一員として北朝鮮を訪問したフェドット・トゥムソフ議員は、北朝鮮当局から自国労働者のロシア残留を求められたと述べたとインテルファクス通信が報じている。

またロシアの国内事情に詳しい韓国の北朝鮮ウォッチャーは、「ロシア企業の間でも勤勉な北朝鮮労働者は評判がいい。彼らの埋めた穴を中央アジアからの出稼ぎ労働者で埋めようとしているが、なかなかうまく行かないようだ」と語った。

(参考記事:【動画】北朝鮮労働者とタジキスタン労働者、ロシアで大乱闘

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事