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北朝鮮国内で金正恩「健康不安説」がささやかれ始めた理由

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の平壌市民の間で金正恩党委員長の「健康不安説」が流れていると、デイリーNKの内部情報筋が15日、伝えてきた。気の合う友達や親しい友人同士の会話の中で金正恩氏の話題が上ると、「元帥様(金正恩氏)の健康状態が異常である。顔色も暗く、表情も乏しくなったように見える」と口々に語っているという。

北朝鮮国内では、同国の人々が金正恩氏の健康状態の変化を大っぴらに話すことは許されない。それでも、気になるものは気になる。過去には金正恩氏の体形変化と同時に、公開処刑が増えた時期があるからだ。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

現在は肥満体である金正恩氏だが、2011年に最高指導者になった直後はそれほどではなかった。しかし、ある時期から急に肥満度が増す。その前後に北朝鮮では粛清の血の雨が降った。残虐な粛清をするなかで、金正恩氏の精神状況と身体に何らかの異変が起きていたと筆者は見る。

(参考記事:金正恩の「肥満」と「処刑」が同時期に始まった必然

北朝鮮国内だけでなく、金正恩氏の健康状態は世界中の情報機関の重要な関心事だ。健康状態如何によっては、北朝鮮内部で何らかの異変が起きる可能性も拭えない。逆に言えば、北朝鮮側としては決して知られてはいけないトップシークレットだ。金正恩氏が乗るベンツには、同氏が普通のトイレを使えない事情を考えて、特殊な装備が搭載されているとも言われる。生体情報を守る目的もあるのかもしれない。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

情報筋によると、金正恩氏の顔色がすぐれないことについて、住民たちは「これは全て米国のせいではないか」「米朝首脳会談以後、朝鮮中央テレビに出てくる元帥様の姿を見ると、以前とは違って健康状態が非常に悪いようだ」とこそこそ言い合っているという。

今月、北朝鮮メディアが公開した写真を確認してみた(上)。金正恩氏は覇気ヘアといわれる独特のヘアスタイルにコダワリをもち、サイド部分にはほとんどそり跡を残さない。眉毛も剃って整え、肌も丁寧にスキンケアしているかのようにツヤツヤしている。しかし、この写真を見る限り、いつもより肌が荒れているのが気になる。それでも公開したのは金正恩氏の意思によるものだろう。

金正恩氏は間違いなく、自身が北朝鮮国内外から見られていることを意識している。独裁者特有の自己顕示欲もあるが、自らの素顔を開けっ広げにさらすことで、最高指導者の神秘性を否定し、そのうえで国家において父・金正日総書記を超える存在となるべく、彼なりに描き出した権力の階段を上ろうとしているのではないだろうか。

(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか

金正恩氏の変化に対し、世界で最も敏感なのが北朝鮮の人々であることは言うまでもない。また、厳しい北朝鮮社会を生き延びるためには、健康状態だけでなく最高指導者のありとあらゆる変化をいちはやく察知することが不可欠となる。それだけに、北朝鮮内部から漏れ伝わってきた金正恩氏の「健康不安説」は気になるところだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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