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北朝鮮「美貌のウェイトレス」の消えゆく運命…金正恩氏の横暴で

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
集団脱北した北朝鮮レストランのウェイトレスたち(民族通信)

一部の人々から絶大な人気を誇っていた北朝鮮レストラン(以下、北レス)の美貌のウェイトレスの姿が、見られなくなるかもしれない。

中国や東南アジアなどに展開する北レスの最大の売りは、ウェイトレスも兼ねた美貌の女性従業員たちによる歌や踊り、楽器演奏などのショーだ。近年では、特に容姿端麗なウェイトレスの写真がネットで出回り、韓国の若者たちの間でアイドル並みの人気を博したこともあった。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

韓国政府によると、世界には約130店の北レスがあり、うち100店が中国に集中しているという。

AKB48のヒット曲も

ところが、中国商務省は28日、北朝鮮に対する国連安全保障理事会が採決した制裁決議2375号を受け、北朝鮮の個人や団体によって中国国内に設立された合弁企業などに対し、決議採択の日(現地時間9月11日)から120日以内の閉鎖を求める通知を出した。

北レスもまた、中国資本と北朝鮮企業の合弁として運営されているのが普通で、当然、今回の閉鎖命令の対象になるものと思われる。

これまで、北朝鮮の外貨稼ぎの柱のひとつとなってきた北レスだが、それだけに各店舗には本国から厳しいノルマが課せられている。そのため、営業不振でノルマが確保できない場合は、違法行為に走ることもあるという。たとえば、中国・上海の北レスの建物の上階にはVIPルームが設けられており、美貌のウェイトレスたちが、馴染み客の性的接待、すなわち売春を強要されているとの情報もある。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上)

2015年12月末、このレストランの宿舎からウェイトレスが失踪する事件が起きた。理由は、厳しいノルマに苦しめられただけでなく、売春を強要されることに耐えられなかったからだと言われている。

北レスのウェイトレス失踪といえば、昨年4月、中国浙江省寧波市の「柳京食堂」から男性支配人と女性従業員ら13人が集団脱北した事件が記憶に新しい。

脱北した13人は、全員が既に韓国入りし社会生活を営んでいる。それでも北朝鮮当局は、韓国政府に対して彼女らを送還せよと執拗に要求している。貴重な外貨稼ぎ手段を失ったことへの反発に加えて、他の北レスの従業員たちが動揺するのを防ぐ狙いがあると見られる。

いずれにせよ、中国の北レスが閉鎖されれば、北朝鮮にとって大きな痛手となる。同時に、外国人が気軽に北朝鮮文化に触れる数少ない機会も失われてしまう。

北レスで、ウェイトレスたちへの人権侵害が行われているなら決して許されるべきではないが、彼女らが見せる微妙な変化は、北朝鮮社会の変りようを垣間見せるものでもあった。彼女らにとっても、比較的自由に外国文化に触れることができる職場だったのだ。たとえばタイの北レスでは、ウェイトレスたちがAKB48のヒットナンバー「恋するフォーチュンクッキー」を披露している。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃……「北朝鮮レストラン」の舞台裏

北レスがなくなることは、閉鎖的な北朝鮮社会と外部世界をつなぐ数少ない経路がなくなることも意味する。仮にそうなれば、その全責任が金正恩党委員長の「核とミサイル」のやりたい放題にあることはいうまでもない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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