Yahoo!ニュース

北朝鮮が新たに目論む「美女接待」ビジネス

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団

外貨不足に悩む北朝鮮が、美女を活用した新たなビジネスを企画しているという。中国のデイリーNK対北朝鮮情報筋によると、北朝鮮系の旅行会社が、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春にある旅行会社と合弁で、「美女接待つき」の中国ツアーを計画しているというのだ。

人気の美人ウェイトレス

北朝鮮による美女を活用した代表的なビジネスといえば、世界各地で経営する北朝鮮レストランだ。韓国政府によると、北朝鮮レストランの数は世界に130店ほどあり、うち100店が中国に集中している。

上客は中国を訪れる韓国人観光客だった。普段触れることのできない北朝鮮への物珍しさや、「美人接待員」の歌と踊りが魅力だった。「接待員」とは朝鮮語でウェイトレスのことだ。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

しかし、核・ミサイルなどの北朝鮮の相次ぐ挑発を受けて、北朝鮮レストランなどの外貨稼ぎに対する目が厳しくなった。韓国政府も昨年2月、自国民に対して北朝鮮レストランの利用を自粛するよう勧告を出した。こうした中、客足は落ち廃業を余儀なくされる北朝鮮レストランが続出した。そして昨年4月、北朝鮮レストラン従業員の集団脱北事件が起きる。

(参考記事:金正恩氏、美人ウェイトレスの集団脱北で「公開処刑」を指示か

また、最新鋭高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)の在韓米軍への配備を巡る韓国と中国の対立のあおりをうけて、中国を訪れる韓国人観光客が激減していることから、ただでさえ減少傾向にあった韓国人観光客の利用者が、さらに減ると見られている。

強制売春も

北朝鮮レストランが苦境に陥るなか、新たに企画されているのが美女接待つきのツアー、すなわち北朝鮮美女と行く中国国内ツアーというわけだ。その企画の中身は、中国語が話せる北朝鮮美女を雇い入れ、中国国内ツアーのガイドを担当させるというものだ。

企画は瀋陽の北朝鮮領事館の許可を得ており、平壌からの最終承認待ちだという。中国の国内法では、外国人の旅行会社設立は認められていないため、名ばかり社長に中国人を据える予定だという。中国人はもちろんのこと、韓国人観光客も誘致する計画だ。

しかし、この情報筋は企画が実現する可能性は低いと見ている。

「よその国から派遣されたガイドの説明など誰が聞きたがるのか」

「韓国人も国内外の視線を気にして、参加しないだろう」(情報筋)

それ以前に、中国当局が国際社会の目を気にして企画にストップをかける可能性もある。中国当局は北朝鮮ツアー最大手の丹東中国国際旅行社の全順姫総経理を、マネーロンダリングと公務員が絡む汚職に関与した疑いで逮捕するなど、対北朝鮮ビジネス全般に圧力をかけているからだ。

また企画が成立したとしても、美女同伴のツアーだけに、裏では売春行為などが横行する可能性もある。実際、北朝鮮レストランでは、本国へ送る厳しい上納金のノルマを達成するために、ウェイトレスに強制売春を強要していると言われているのだ。

(参考記事:中国の北朝鮮レストランで「強制売春」説が浮上

北朝鮮美女と行く中国国内ツアーは、外貨稼ぎのためには女性の人権を顧みない北朝鮮当局が、いかにも思いつきそうな商売である。

(参考記事:北朝鮮「美女カラオケ店」ぼったくりサービスの実態

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事