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居場所を失う金正恩氏の「美人接待員」たち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員たち

北朝鮮当局が世界各地で経営する北朝鮮レストラン。先日、本欄で東南アジアにある北朝鮮レストランの苦境について伝えたが、こんどは中国・青島にあった北朝鮮レストランがひっそりと消えていったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

現地の情報筋によると、山東省青島市の青島国際空港の近隣にある韓国人街で営業していた3店舗の北朝鮮レストランが、最近になって相次いで廃業した。

廃業の理由について詳細は不明だが、地元では様々な噂が飛び交っている。情報筋は、ミサイルや核兵器の開発を進める北朝鮮に対する中国人の感情が悪化した上に、料理の味や質に比べ値段が高すぎたことで客足が落ち、廃業を余儀なくされたと見ている。

(参考記事:北朝鮮「美女カラオケ店」ぼったくりサービスの実態

また、唯一の魅力といえば、「美人接待員」の歌と踊りだった。「接待員」とは朝鮮語でウェイトレスのことだ。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

しかし、演じられる曲が北朝鮮の歌ばかりだったため、飽きられてしまったのかもしれない。

韓国政府によると、北朝鮮レストランの数は世界に130店ほどあり、うち100店が中国に集中しているが、上客は中国を訪れる韓国人観光客だった。普段触れることのできない北朝鮮への物珍しさからだろう。

ところが、韓国政府は昨年2月、自国民に対して北朝鮮レストランの利用を自粛するよう勧告を出した。また、国連安保理は翌月、北朝鮮の「ヒト、モノ、カネ」の出入りを絶つ目的で対北朝鮮制裁決議2270号を採択した。

これが予想以上に効果があったようで、廃業を余儀なくされる北朝鮮レストランが続出していた。そん中、北朝鮮レストラン従業員の集団脱北事件が起きてしまった。激怒した金正恩党委員長は、「韓国人客を出入り禁止にせよ」という命令を下したが、これが自分の首を絞める結果を生んだ。

そこに加えて、韓国に配備された米軍の最新鋭高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)を巡る韓国と中国の対立のあおりをうけて、中国を訪れる韓国人観光客が激減していることから、ただでさえ減少傾向にあった韓国人観光客の利用者が、さらに減ると思われる。

北朝鮮自らが招いた「北朝鮮レストラン冬の時代」は今後も続きそうだ。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃……「北朝鮮レストラン」の舞台裏

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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