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金正恩氏がリオ五輪に送る「極悪性スキャンダル」の主人公

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の崔龍海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党中央委員会副委員長が7月30日、リオデジャネイロ五輪の開会式に出席するため、経由地の中国・北京に入った。

崔氏は、金正恩党委員長の側近として知られる。正恩氏との「近さの指標」とされる現地指導の随行回数は、今年上半期が14回で2位。昨年、回数トップだった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長の13回を上回った。(ちなみに、上半期のトップは趙甬元(チョ・ヨンウォン)党中央委員会副部長の29回。)

「醜聞」で失脚

そんな事情もあり、北朝鮮ウォッチャーの一部には「崔氏は滞在中、中国の指導部と会談を行うのでは」との観測もある。ところが韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は31日、「(崔氏の)今回の北京訪問はブラジルに向かうために単純に経由する側面が大きい」として、重要会談の可能性を切って捨てた。

尹氏が根拠として挙げたのは、「中国と北朝鮮は7月25日に、ラオスで外相会談を行ったばかりだから」とするものだ。確かに、そういう見方もあるだろう。しかし、中国と北朝鮮が国際社会に何らかのメッセージを発する目的を持っていれば、そんなことは関係なく会談を行うはずだ。

それを承知で尹氏があのように語った背景には、間違いなく崔氏に対する「評価」がある。

崔氏は過去、女性問題などで数々のスキャンダルを起こしており、失脚と復活を繰り返してきた。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

「愛人関係」と権力

失脚した際、他の幹部のように処刑されなかったのは、父の崔賢(チェ・ヒョン)元国防委員長が、故金日成主席の抗日パルチザン時代からの同志だったからだ。

北朝鮮の体制において、抗日パルチザン出身者とその親類縁者たちは、最強の権力層を形成してきた。中でも崔賢氏は超大物として君臨し、その権威を笠に着た息子の龍海氏は、関西風に言うところの「アホボン」の代表格なのだ。

また、「出身成分」という厳格な身分制度が敷かれている北朝鮮では、どのような家柄と婚姻などを通じて(あるいは愛人関係も含めて)つながるかということが、非常に重要でもある。

(参考記事:権力と「男女関係」がからみつく金正恩王朝の内幕

「極太ズボン」に激怒

もちろん、北朝鮮の指導部にはこのような人物だけが名を連ねてきたわけではない。かつて対米交渉で名をはせたスター外交官、姜錫柱(カン・ソクジュ)氏は、女性遍歴も凄まじかったようだが、それだけの人物ではなかった。少年時代に両親の仇(かたき)を皆殺しにし、実力ひとつでのし上がった特異な経歴の持ち主でもあったのだ。

(参考記事:報復殺人と「秘密の饗宴」、そして女性遍歴…北朝鮮外交エリートの実像

しかし正恩氏は、祖父や父の代からの幹部たちを、必ずしも重用しない傾向も見られる。冷徹に、自らの権力装置をデザインしている姿勢がうかがえるのだ。

とくに崔龍海氏に対しては、中国訪問などの重要な役割を与えるかと思えば、自分の「極太ズボン」を真似ただけで叱り飛ばすなど、矛盾した態度も見せている。

(参考記事:金正恩氏「俺のマネ禁止令」を下す…「同じズボンを履くな!」

崔龍海氏が今後も、正恩氏の側近の地位を維持できるとは限らないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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