「離婚は悪という認識」が少子化を促進する北朝鮮のケース
故金日成主席は、「家庭は社会の一つの細胞であり、細胞をいかにうまく運営するかに人民大衆中心のわれわれ式社会主義の基礎がかかっている」と述べた。夫婦や家族は、個人間の結びつきよりも、社会の歯車の一つという扱いをしている。
だからこそ、当局は離婚を社会悪と見なし、「離婚が社会と革命を利する場合のみ容認する」として、ハードルを高くしている。協議離婚は廃止され、裁判離婚のみが認められており、健康問題、不倫、家庭内暴力、重大な違法行為など許可事由が非常に限られている。
そんな社会的風潮が、母子家庭の子どもたちを苦しめている。デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
家族を国にたとえ、首領(最高指導者)と父と崇める家族主義国家観「社会主義大家庭」が強い北朝鮮では、その家庭の崩壊は国の崩壊であるかのように受け止められ、まともなものとは扱われない。父母と子どものそろった「正常家族」のみがあるべき姿とみなされ、離婚は社会を乱すものとされる。
「家庭の革命化が社会の革命化で、家族の(思想的)改造が社会の改造ということが、朝鮮労働党の製作の基礎に根強くある」
離婚は社会を乱すものと扱われ、離婚した幹部は、家庭を革命化しきれなかったとして、出世への道が閉ざされる。また、その子どもは学校で仲間外れにされたり、発言権を奪われたりするなど、様々ないじめや差別の対象となる。
そこまでのデメリットを押してでも離婚する理由は、経済的なものだ。
市場経済化の進展に伴い、妻が一家の生計を担うことが一般的になった。一方で、国営の工場、企業所、機関への就職が義務化されている夫は、薄給で経済的に何も役に立たない。夫のプライドが傷つき不和になり離婚するというケースが多いようだ。
「一家の大黒柱の役割を果たせない夫と別れて、自分で稼いだ財産を取り戻したいという女性の声が大きくなっている。そのため、財産分与は戦争のようになる」(情報筋)
北朝鮮の家族法は39条で財産分与について合意で決めると定めているが、円満に解決する場合は非常に少ないという。
そのため、結婚をしないという選択をする女性が非常に増え、結婚しても子どもを持たない夫婦が増えている。当局は思想教育を施したり、避妊や中絶を禁じるなど、かなり無茶な少子化対策を行っているが、逆に「離婚しづらいなら最初から結婚しない」と考える。
(参考記事:響き渡った女子中学生の悲鳴…北朝鮮「闇病院」での出来事)
特に結婚という選択をしない女性が多く、一度離婚した女性が再婚するケースも非常に少ない。一方で、生きていくためになんとか「逆玉」に乗ろうとする男性は少なくないという。
「女性たちは再婚して、夫を食わせるために一生を捧げるより、金儲けして誰にも気兼ねせずいい暮らしをするほうがいいと考える。子どもがいなければきょうだいや甥や姪に財産を贈与して、死んだらいいところに葬って欲しいと頼むことが多い」(情報筋)