スパイ容疑の芸術家を「機関銃で粉々に」…北朝鮮の人権侵害(1)
米国政府が北朝鮮での人権侵害の責任を問い、金正恩党委員長らを制裁指定したことに対し、北朝鮮が猛反発している。恐怖政治をよりどころにしている金正恩体制にとって、人権侵害を止めることなどできない相談だろう。
一部には、北朝鮮の人権侵害は正恩氏の祖父・金日成主席と父・金正日総書記の時代に行われてきたものであって、正恩氏は「負の遺産」を背負わされたのだとする見方もある。
彼が指導者として登場した当初は、確かにそうだったかも知れない。しかし現時点では、正恩氏も数々の人権犯罪に手を染めている。たとえば、2013年12月に、彼の命令によって行われた叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の処刑だ。国連人権理事会は、極めて不透明かつ不公正なプロセスの中で行われたこの処刑は、明らかに国際人権法に違反するものだと結論付けている。
そして、正恩氏の恐怖政治はこの処刑を機に、拍車がかかったように見受けられる。2014年3月には「銀河水管弦楽団」のメンバーら4人がスパイ容疑をかけられ、衆人環視の中、体が粉々になるまで機関銃を乱射されて処刑された。翌年5月の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長の処刑も、同様に残忍なものだった。
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認)
韓国の国策研究機関である統一研究院が昨年7月に発刊した「北朝鮮人権白書」によると、「2008年から2014年までの7年間で、毎年200〜250人の脱北者を対象にした聞き取り調査をベースにした結果、2000年から2014年まで公開処刑された住民の総数は、1382人と推算される」としている。正恩氏が権力を継承した2012年以降でも108人が処刑されており、その数は確実に増え続けている。
彼の受け継いだ権力は、公開処刑という恐怖のシステムとセットになっているのである。
(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」)
そして、正恩氏はそうした恐怖政治を駆使し、朝鮮労働党大会と最高人民会議を経て自らの独裁権力の基盤を固めた。独裁権力を握るということは、いずれ北朝鮮に関わるすべての問題について責任を問われるということだ。
(参考記事:金正恩氏が党大会に隠していた「血と恐怖」のシナリオ)
いつか北朝鮮の体制が変化を強いられるような展開になれば、正恩氏は、独裁権力を握ったことを公開することになるだろう。