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金正恩氏の「統治資金」をブロックせよ!…制裁で狭まる北朝鮮包囲網

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮の経済制裁に、はやくも動きが出てきた。国連安全保障理事会の新たな北朝鮮制裁決議(2日採択)に基づき、フィリピン政府は5日、北朝鮮の貨物船を差し押さえた。

(参考記事:フィリピン政府が北朝鮮船を差し押さえ…新たな対北制裁を履行

今回の制裁内容に「原油輸出禁止」と「海外への労働者派遣禁止」の条項が抜けおちていることから、骨抜きにされるという危惧もあるが、中国との大規模な資源取引に制限がかけられたことにより、北朝鮮が必要な外貨収入に関してダメージを与えることは間違いない。

(参考記事:北朝鮮制裁で金正恩氏を追い詰められるのか

さらに、世界中から外貨を集める実行部隊とも言える北朝鮮の外交官による違法行為が困難になる可能性もある。

ほとんどの外交官は、駐在する国と北朝鮮を往来するために、中国とロシアを経由する。つまり、合法、違法問わず北朝鮮の外交官が稼いだ外貨は、この両国、特に中国を通じて北朝鮮に持ち込まれる。時には、数百万ドル単位の外貨が持ち込まれるケースもあるという。中国の税関は、外交官パスポートを見せると難なく通関できたためだ。

今回の制裁には、こうした多額の外貨を人の手で運搬する行為を処罰するための条項が儲けられており、北朝鮮の外貨稼ぎにダメージを与える可能性が高い。また、比較的、自由に動くことができる外交官らが、忠誠資金という名の外貨稼ぎノルマを強要する金正恩体制に見切りをつけて脱北する事例が増えることもあり得る。

(参考記事:対北制裁が北朝鮮外交官の外貨稼ぎに与えるダメージ

(参考記事:北朝鮮、接待という名の「たかり」で海外駐在員の外貨を吸い上げ

そうでなくても、北朝鮮ではこのところ、官僚などエリートの脱北が相次いでいる。韓国の国家情報院によると、北朝鮮から脱出して韓国入りしたエリートは2013年は8人、2014年は18人、2015年は10月までに20人と増加傾向にあり、中には相当な高官も含まれているという。

(参考記事:金正恩氏の「バイアグラ資金」が盗まれている

外交官の外貨稼ぎを制限し、さらに北朝鮮国内に入る前に外貨をブロックすることが出来れば、金正恩体制包囲網がかなり狭まりプレッシャーを与えることが出来るだろう。だからこそ、米国は今回の北朝鮮制裁を「史上最強」と豪語しているのかもしれない。

制裁が北朝鮮の外貨稼ぎにどれだけ食い込められるのか、そしてこれに対する金正恩体制の次の一手に注目される。

(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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