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人は戻っているのに続く鉄道の減便ダイヤ 「5類」でも感染拡大を考えると増発が必要だ

小林拓矢フリーライター
コロナ禍での通勤ラッシュ(写真:つのだよしお/アフロ)

 コロナ禍で鉄道の利用者は減った、とよく言われる。確かに、「緊急事態宣言」が出ているときには、どんどん利用者が減っていったのも事実だ。

 そのころ、今後は鉄道の利用者が減っていくのか、あるいは元通りに戻っていくのかということが議論になっていた。

 鉄道事業者が今後の見通しも立ちにくく、売り上げが減り経費ばかりがかかっていくのを見ていると、どうしても守りの経営になってしまう。

 窓を開けようと利用者に声をかけ、あるいは窓枠にシールを貼って窓を開けさせようとし、列車内の除菌に手間とお金をかけ、感染対策を続けている。

 コロナ禍初期は、「緊急事態宣言」が全国に発出されており、なるべく多くの人が必要以上に外出しないようにしていたものの、ワクチンを多くの人が接種し、かつ「まん延防止等重点措置」も出ないような状況になると、少しずつ電車の中にも人が戻ってきた。

 そして新型コロナウイルスは「2類」から「5類」へ。現実の新型コロナウイルスの感染状況そのものも報じられなくなり、いっぽうで感染が縮小しているか拡大しているかもわからない状況になってきた。地域によってはいまだにクラスターなどが発生しているところもある。

 だが、駅や街、そして鉄道車両内に人があふれる状況がふたたびやってきたというのも、ふだん鉄道に乗っている人ならばだいたい「見ればわかる」状態といえるのではないだろうか。

なぜ混雑が目立つのか?

 混雑が目立つ理由として、まずコロナ禍前のように人がふつうに街に出てきているというのがある。先日、東急電鉄に乗り、いくつかの駅を利用してみたものの、列車にも駅にも人が多くおり、混雑は激しかった。

 そのほかの鉄道でも、新宿駅などは以前と同じように多くの人が歩いており、ホームにも人が多数立っている。

 都心部やその周辺では、電車に乗ると人が多い。平日のラッシュ時だけではなく、土休日の昼間なども、混雑が目立つ。

 混雑が目立つ理由として、2つのことが考えられる。まずは実際に多くの人が出歩くようになったこと。もう1つは、コロナ禍に合わせて列車の本数を減らし、それゆえに増えた人に対応できず、列車がぎっしりになってしまったということである。

 まだコロナ禍前の9割程度しか人が戻っていないということは報道などでよく言われる。しかし、列車の本数を減らしてしまえば、人が増えるとその分1列車あたりの人数が多くなってしまうということになる。

 それゆえに混雑が目立つ状況になっている。

 とくに新型コロナウイルスが「5類」に移行してからは、マスクをしていない人も普通に列車に乗っているのを目にする。

 減った列車に多くの人が乗り、混雑が余計に目立ち、しかも新型コロナウイルスの感染が終わっている状況ではないため、いろいろと気になってしまい、さらに混雑を意識するような状況になっている。人の密度の高さを感じるしかないのだ。

人々の行動の変化を読み取れなかった鉄道事業者

 多くの鉄道事業者は、毎年3月にダイヤ改正を行う。この春のダイヤ改正では、相鉄・東急直通線の開業が明るい話題となったものの、コロナ禍による減便ダイヤは変わらないことになり、ポスト・コロナを意識させることはなかった。

 そんな状況でも、相鉄・東急直通線開業時の新横浜駅周辺には多くの人が集まっていた。

 筆者は、相鉄・東急直通線の新横浜発一番列車の取材をしていた。その一番列車は満員とはいかないまでも高い乗車率となり、相鉄・東急直通線の新横浜駅から東海道新幹線に向かう人は早朝とはいえ勢いがすごく、人はポスト・コロナに向かって意識と行動を変化させているということを感じさせられた。

 しかし、そんな人々の変化への対応は後手に回っている。

 東京メトロは4月29日より、銀座線の増発を行った。利用者が増えているという理由によるものだ。東京メトロ銀座線は一時期平日昼間5分間隔にまで本数を減らしたものの、それでは混雑があまりにも目立ちすぎる状況になっていた。その対応である。

 混雑緩和のため、銀座線のように鉄道はもっと本数を増やすべきではないのか、とは思う。

本数の増やしやすい路線、増やしにくい路線

 現在の人の流れを、鉄道事業者は予測できなかった。コロナ禍が収まったということになり、鉄道利用者がもとのように戻るということは3月ダイヤ改正時点では考えていなかった。

 もちろんこれは、鉄道事業者ばかりを責め立てることはできない。ダイヤ改正は長い時間をかけて行うものであり、JRなどは改正の数か月前には詳細な内容を発表する。その時点で、現在のようなコロナ「5類」移行を予測できていたわけではない。

 ただ、ディフェンシブな考えを持つ鉄道事業者は、コロナ禍が終わらず、終わっても多くの人はテレワークのままであり、少子高齢化などで鉄道利用者が減っていくという将来の見立てをしている。

 そんな中で、鉄道事業を適切にダウンサイジングしていくことを計画していたといえるだろう。減便などによるコスト削減を意識する状況にはあった。

 コロナ禍を契機として、鉄道事業のダウンサイジングとコスト削減を実施しようとしていたといううがった見方ももちろんできる。

 鉄道会社の鉄道事業は少子高齢化社会において大きく発展することはない状況にあり、どこも利用者のつなぎ止めに必死になっている。そのために子どもの運賃を安くしたり、駅施設を改良したりしている。駅のトイレが近年、充実してきたのはその一例である。

 ディフェンシブな思考が主流の鉄道事業者は、現在のように鉄道利用がさかんになることを想定しにくい体質にあり、減便ダイヤを変えることはできなかった。

 もちろん、ダイヤ改正はすぐにできるものではない。しかし、可能な限りダイヤをいじり、列車本数を増やそうとすることは、必要ではないだろうか。

 では、どんな路線で増やすべきなのか?

 東京圏では、JR東日本の中央線や上野東京ライン・湘南新宿ラインのような路線で増やすには、多方面との調整が必要になるというのは考えられる。しかし、JR東日本の山手線や東京メトロ丸ノ内線のような、混雑が激しく他路線との行き来がない路線では、列車の間隔を短くするなどのダイヤ改正は、可能ではないだろうか。

 もちろん、車両や乗務員の手配も再検討する必要はある。

 ただ、人が多く乗っておりかつ他路線に影響がない路線では、ダイヤの早期見直しを検討すべき状況になっていると考えられる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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