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意外に簡単ではない新幹線の自動運転、JRで進む導入への取り組み 運転士のファインプレーから考える未来

小林拓矢フリーライター
自動運転の試験対象となっているE7系(写真:イメージマート)

 これまで、運転士がその技量でレールの上を安全に走らせてきた鉄道でも、近年は自動運転に移行する取り組みが進んでいる。

 もとから自動運転をするべく、設備を整えてきた新交通システムならともかく、鉄道ではこれまで運転士がいることを前提にして「人の目」を中心に安全を確保してきた。

 そんな中、新幹線でも、ゴールデンウィーク明けから自動運転に向けた取り組みが大きく進んでいる。

JR東日本とJR西日本が技術協力

 JR東日本とJR西日本は、新幹線の自動運転について技術協力すると9日に発表した。

 JR東日本は、2021年度に上越新幹線の新潟駅~新潟新幹線車両センター間で回送列車の自動運転の試験を実施した。これまでの試験で得られた知見をもとに、2020年代末には上越新幹線の新潟駅~新潟車両センター間の回送列車で完全な自動運転(GoA4)を、2030年代中ごろには東京駅~新潟駅の営業列車で添乗員つきの自動運転(GoA3)の実現をめざそうとしている。

[図]鉄道の乗務形態による分類(自動運転のレベル)(国土交通省「鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ」より)
[図]鉄道の乗務形態による分類(自動運転のレベル)(国土交通省「鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ」より)

 JR西日本は、2022年度から北陸新幹線白山総合車両所敷地内で、車両を自動で加速・減速させて定められた位置に停止させる制御装置などに関して、自動運転機能の評価と課題抽出のための実証実験を実施している。今後は、北陸新幹線での自動運転の実現に向けたシステム開発やコスト軽減を進めるという。

 そんなJR東日本とJR西日本は、相互直通運用を行う北陸新幹線のE7系・W7系をベースに、自動運転の実現に向けた技術協力を進めていくとする。

 所属会社の違うE7系とW7系だが、中身は同じ車両であり、その共通する車両では自動運転のシステム開発には一緒にできることも多く、そのほうがコストも低減できる。

 現在、上越新幹線では自動運転の導入をめざし、北陸新幹線では導入を検討している状況で、上越新幹線で実現させたら北陸新幹線でも実現させたいということである。

 すでに、4月に覚書を締結している。

JR東海では走行試験の初公開

 JR東海は、2028年以降の営業運転への導入をめざし、東海道新幹線の自動運転に向けた走行試験を行っている。11日には初めて報道陣にその様子を公開した。JR東海の新幹線自動運転は、運転士が操作している車両の加減速や停車を自動化するというものだ。

 現在の東海道新幹線では、運転士の技量により速度を細かく変えてダイヤを維持している。そこを自動化することで、よりダイヤの正確性を向上させようというものだ。

 JR東海は、運転士と車掌がいて速度制御や停車を自動化する自動運転(GoA2)の導入を目指している。この方式の自動運転は、一部の地下鉄ですでに実用されているが新幹線では導入されていない。

 JR東日本やJR西日本が「省人化」のために自動運転を導入しようとするのに対し、JR東海はダイヤの正確さのために自動運転を導入しようとするという違いがある。

 もちろん、新幹線は在来線に比べてもとから踏切がなかったり、運行がかなりシステム化されていたりという特徴がある。すでに自動運転を導入している地下鉄なども、踏切がなくホームドアがあるなどの好条件を整えている。

 新幹線でもホームドアの整備などを行うことを前提として、自動運転を導入する。

 しかし、人間の運転士の技量による運転は、コンピューターに負けてしまうのか? いや決してそんなことはないということを示す話が、先日山陽新幹線で起こった。

運転士のファインプレーが新幹線を救う

 5月8日、JR西日本の山陽新幹線「さくら548号」の運転士が、徳山~新岩国間で竹が線路近くに倒れ掛かっているのを発見、また同じ列車の運転士が、架線に白いビニールが引っかかっているのを確認した(ただし、ビニールは見つからなかった)という事例があった。

 万が一、倒れた竹に新幹線がぶつかったり、架線にビニールが引っかかったりした状況で新幹線を走らせれば、走行の安全性が担保できない懸念がある。

 実際に異常の察知はコンピューターのほうが得意ではあるが、危険の未然の察知は人間の、それも経験を積んだ運転士のほうが得意ということになる。

 この新幹線の運転士の技量は、事故から新幹線を救い出し、安全を確保する上で重要だったといえる。

九州新幹線N700系
九州新幹線N700系写真:イメージマート

人間とコンピューターのよい関係を

 2本のレールの上を走る新幹線の場合、もともとは有人運転を前提としていた。それをかなり先とはいえ、乗務員なしの自動運転に対応させるためには地上設備自体を大きく変えていく必要がある。車両だけではどうにもならない。

 それゆえに上越新幹線の自動運転は10年以上先であり、北陸新幹線ではさらにその先となるだろう。いっぽう、東海道新幹線ではあくまで乗務員の補助としての自動運転であり、近い将来に可能になると考えられる。

 そんな中、山陽新幹線の運転士によるファインプレーの報道があった。

 もちろん、今後は人手不足が予想されるため、より省人化という考えもわからなくはないのだが、過度にコンピューターに依存するシステムにもリスクはあるのではないか。

 人間とコンピューターがよりよい関係性をもって、安全運行に力を注いでいく方向を前提として、自動運転の技術を向上させてほしい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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