Yahoo!ニュース

メトロ銀座線4月29日より増発 乗客の戻る鉄道業界、減便ダイヤを改めることも必要では?

小林拓矢フリーライター
銀座線は高頻度運転が行われていた路線である。(写真:つのだよしお/アフロ)

 3月18日に多くの鉄道事業者がダイヤ改正を終えて少し経ったころ、東京メトロから銀座線の増発についての発表があった。4月29日に、銀座線は昼間の列車を5分間隔から、4分間隔にして本数を増やすという内容のものだ。

 銀座線では、2022年8月27日に、3分から4分間隔だったダイヤを、一気に5分間隔へと大きく減らした。毎時18本の運転だったものが、12本へと減った。

 しかしそれから1年も経たないうちに、4分間隔、毎時15本へと増やす。

 本数を減らしてから、銀座線の混雑が目立つようになり、また乗客も増えていった。コロナ禍前は車体の小ささや編成両数の少なさ、いっぽうで路線の走行区間のよさゆえに混雑してきた銀座線は、人の流れが戻って来ると乗客が戻って来るということは予想できたことだったはずだ。

 現実の新型コロナウイルス感染は拡大と縮小を繰り返しているものの、人々はそのことは気にしないようになり、ワクチンを接種しマスクをして街中に出るようになった。それゆえに鉄道の乗客はコロナ禍前ほどではないにせよある程度回復しており、混雑が目立つようになった。人々の行動パターンが、徐々に戻りつつある。

銀座線は再増発、その後はどうする?

 そこで東京メトロ銀座線はふたたび増発する。銀座線は、他路線とは乗り入れしていない路線のため、本数の調節もしやすいという性質がある。

 東京メトロで減便し、銀座線と同じように他路線との乗り入れがない路線として、丸ノ内線がある。丸ノ内線も銀座線と同じ2022年の8月に本数を削減し、コロナ禍の利用者減に対応しようとした。こちらも、利用者が増え始めているころである。

 コロナ禍以降、首都圏各事業者は減便を繰り返してきた。深夜帯の利用者が減り終電が繰り上げられ、いまももとのようには戻っていない。通勤時間帯も減便した。昼間の減便では列車の間隔が空くようになり、山手線さえ5分間隔になった。かつては3分くらいの間隔だったのに、とは思う人も多いだろう。

 で、また人出が多くなってきた。都市鉄道のビジネスモデルでは、ある程度人が乗らないと利益にならない。かといっていつも乗客が密になっていてもサービスとしては決してよくない。東京メトロ銀座線や丸ノ内線、JR東日本山手線など、コロナ禍になって減便してもそれなりに混雑している路線は、乗客が戻って来るとなったら何らかの対策が必要である。

 銀座線の特性を活かして、大減便から1年も経たないうちに、本数を増やすという決定をした。新型コロナウイルスの感染状況がどうであろうと、乗客が増えるのならば増やさなくては混雑が激しくなるからだ。増発の発表から約1ヶ月で、銀座線はいまよりも改善される。

列車ダイヤを変えることの大変さ

 列車ダイヤは、簡単に変えることができるものではない。単純に時間を決めればいいだけではなく、列車の運用や乗務員の運用も考えなければならず、他線区との調整も必要だ。多くの鉄道事業者では、車両も人員もぎりぎりのところで回している。これらをきちんと調整しないと変えられないのが、列車ダイヤである。

 銀座線はダイヤの調節がしやすいとは書いたものの、それは他路線に比べればということであり、乗務員や車両に余裕があるからである。運行区間が短く、車両基地も上野や渋谷にあり(丸ノ内線を中野富士見町まで回送して工事を行うこともあるが)、だいたいのことが自線区内でまかなえる路線であるという好条件があるからともいえる。

 それでも、本数増の発表は約1ヶ月前であり、詳細なダイヤは執筆時点では発表されていない。

 都心部の主だった路線で、本数の調節が比較的やりやすい路線は、銀座線以外にも東京メトロ丸ノ内線、都営大江戸線、JR東日本山手線である。ただし、都営大江戸線は乗務員の集団感染があった際に運行本数を減らしたため、乗務員数はぎりぎりだと考えられる。

丸ノ内線も、銀座線同様他路線との乗り入れがない。
丸ノ内線も、銀座線同様他路線との乗り入れがない。写真:イメージマート

 鉄道に乗る人が増える際に、乗務できる職員を確保しておくことが、こういった場合には大事である。

 そのあたり得意なのは、JR東海の東海道新幹線である。繁忙期には突発的に「のぞみ」を増発することもあり、車両や運転士に余裕があるといえる。

 この場合、あらかじめ列車ダイヤを組み立てておき、そこで乗務員等を確保して走らせるようにしている。ちゃんと計算しているのだ。

「明るい見通し」にどう対処する?

 鉄道業界は、ポスト・コロナに対して暗い見通しを示してきたが、意外なことに乗客はコロナ禍前ほどではないにせよ戻ってきている。地方の私鉄でも、富山地方鉄道が4月15日にダイヤ改正し、特急を一部で復活させる。

 乗客が少しずつ戻りつつある中で、鉄道はどう対処すべきなのか?

 新型コロナウイルスの感染状況とは関連性がなくなった人々の行動に対して、何を提供すべきなのか?

 増発である。

 もちろん、すぐに増発ができないことはわかる。ただ、秋ごろをめどに都市部一部路線でダイヤ改正を行うことを検討する必要はあるのではないだろうか。東京メトロ丸ノ内線やJR東日本山手線のように、他と乗り入れのない路線での本数増は、他路線への影響が少ないため、一定の準備期間を置けばできるはずである。

 コロナ禍の見通しはともかく、鉄道の「明るい見通し」に対しては、対応が求められる状況になっていると見るのも、あながち不自然ではないと考えてもいい。東京メトロ銀座線の増発を考えると、そういう議論も可能である。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事