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北海道新幹線、2030年度の全線開業困難に……JR北海道にのしかかる負担、唯一の起死回生策が先送りに

小林拓矢フリーライター
北海道新幹線がやって来る予定の札幌駅(写真:イメージマート)

 北海道新幹線の札幌までの延伸は、JR北海道の悲願である。「新函館北斗~札幌」間の2030年度内の開業に合わせて、札幌駅周辺などの開発も進んでいる。廃線が避けられない路線を多く抱えるJR北海道にとって、苦しい経営状態が劇的に改善するための唯一の起死回生策ともいえる。

 そんな北海道新幹線計画に暗雲が立ち込めている。斉藤鉄夫・国土交通大臣は、12月9日の記者会見で、「現時点で工期を見通すことは難しい」との見方を示した。

 ただ、北海道新幹線の工事に関するニュースが出るたびに、「2030年度(2031年3月末)までの完成は難しいのでは?」と感じることも事実ではある。これまでのところ、見通しが立たなくなるような話が続出している。

トンネル工事が遅れている

 一般的に新幹線の特徴として、山間部や住宅地、ありとあらゆるところをトンネルや高架橋で線路を通し、高速で運転できるようにルートを定めている。新しい新幹線になればなるほど土木構造物が頑丈である。

 北海道新幹線もまた、長いトンネルで成り立っている新幹線である。工事区間である新函館北斗~札幌間(約212キロ)には、全長32キロ超の渡島トンネルをはじめ、札樽トンネル(約26.2キロ)など多数のトンネルがある。しかし工事では、巨大な固い岩によって掘削が困難になり、3年から4年の遅れが発生している工区も出ている。羊蹄トンネルは固い岩を砕くためにいったん迂回し、本坑の工事に取りかかれない状況である。トンネル工事残土の受け入れ地の確保が難航するケースもある。

 土木工事というのは、えてして予定より遅れることが多いものの、数年単位の遅れは人件費増大という形で経営にも大きく影響する。

東京~新函館北斗間の「はやぶさ」。全線開業後は札幌まで1本で行ける
東京~新函館北斗間の「はやぶさ」。全線開業後は札幌まで1本で行ける写真:イメージマート

工事費用の増大

 工期の遅れに加え、最近の資材価格の高騰や、円安などといった経済情勢の変化にともない、工事費用が増大する可能性もある。国土交通省は、1兆6700億円としていた当初想定から6450億円増加し、総額で2兆3150億円になるとの試算を発表した。同省は、事業費がかかることを見越し、有識者会議を立ち上げて鉄道・運輸機構と事業費を精査していた。

『北海道新聞』の12月8日付け朝刊によると、6450億円の内訳として、トンネル残土の受け入れ地整備などの予期せぬ自然条件への対応が2700億円、資材価格の高騰など経済情勢の変化への対応が2750億円、耐震基準の見直しなど法令改正への対応が1340億円、それぞれ増加する。さらに、資材価格が0.1%変化するごとに約70億円の影響を受けるという。

 工事費用の増額により、国と北海道が2対1の比率で負担する金額も増加する。国土交通省は8日に北海道庁で、鈴木直道・北海道知事らと意見交換した。北海道や沿線自治体は地元の負担が増えることを懸念している。北海道知事は国土交通省に負担軽減を求めている。

JR北海道の命運を左右する「北海道新幹線全線開業延期」

 この状況は当然、JR北海道の将来構想にもかかわってくる。同社は、赤字のために現在の路線網を維持することが困難な状況にあり、どの路線も将来的な発展の可能性は厳しい状況である。その上コロナ禍ゆえに、ドル箱だった札幌から新千歳空港への空港アクセス列車も利用者減にあえいでいる。高速道路の延伸で、都市間輸送は高速バス利用に乗客が取られ、いっぽうで自家用車での長距離移動は便利な状況になっている。

 経営の厳しさが課題となっているJR北海道は、北海道新幹線の札幌開業の翌年度である2031年度に国の支援を受けないで黒字化する目標を掲げている。そのために北海道新幹線の利用が増えるだけではなく、札幌駅周辺の再開発を行い、ホテルやオフィス、小売り事業での利益増を目指す必要がある。

JR北海道本社
JR北海道本社写真:アフロ

 現状、JR北海道が唯一取れる企業戦略として、新幹線開業に合わせて、札幌駅周辺で稼げる体制を作るというものが考えられる。北海道各地が経済的に衰退し、「置かれた場所で咲きなさい」という言葉に「冗談じゃない!」と反論したくなるような状況が長く続いている中、北海道新幹線「だけ」がJR北海道を救う唯一の希望となっている。

 当然ながら、北海道新幹線の全線開業が延期となると、JR北海道が経営改善に向けて反転攻勢をかける時期もどんどん先送りになっていく。コロナ禍も先が見通せず、鉄道網再編の議論もなかなか進まない状況で、開業延期となれば、同社が抱える困難は解消されないままの状態が続くだろう。

 さらに、札幌冬季五輪・パラリンピックの招致が開業「前」の時期に決まってしまったら、JR北海道の負担は非常に大きく、経営にのしかかることになる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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